主人公信の人間関係が、下僕だった頃から急激な変化で
今までとは別世界にどんどん広がっていくのもこの作品
の面白いところ。
戦争孤児だった信が、下僕の身分の時、同じ境遇で
一緒に育った漂と話していた内容。
一度奴隷になった者は一生奴隷。
奴隷の女と結婚して、子供もその子孫も、ずっと奴隷。
そこから抜け出すには剣しかない。
この頃信にとって、友達と呼べる相手は漂一人だったと
思う。
同じ村の者達と、後には戦で共に戦う事になり、信は
百人将になって立場が上になるが、この時はまだ
そんな事は想像もしていない。
幼い子供の頃から一緒に過ごし、同じ夢に向かっていた
漂との関係は、漂が死んでからも信の心の中にずっと
残っている。
その事がわかる場面が、これからのストーリーの中でも
何度も出てくる。
この後、嬴政と出会い、河了貂と出会う信。
元祖三人組が誕生する。
この三人の絆も、後になっても健在。
共に戦った戦友を大切に思うのが信らしいところ。
同じ頃に出会った嬴政の側近の昌文君や壁も
信に対して徐々に心を開き、信頼を寄せている
ように見える。
山の王楊端和、山の民の戦士バジオウ、タジフとも
一緒に戦う事でお互いの信頼は増しているように見える。
最初の戦で伍の仲間となった尾兄弟とも、
同じ村にいた頃は対等な友達ですらなかったと思うが・・
信の戦いぶりを見て気持ちは変わっていく。
この戦で初めて出会った羌瘣も、信との間に少しずつ
信頼関係ができてきているように思う。
50巻以上続いている今では、恋愛になるのかも?
と見える事もあるこの二人だけれど、この時点ではまだ
その気配はない。
羌瘣に対しても信は、共に戦った仲間として見ている。
信のそういうところに、仇討ちだけが全てだった羌瘣も
心を動かされているように見える。
連絡係として城戸村にいた渕を巻き込んで、王騎将軍に
会いにいく信。
無国籍地帯につ落とされたところで10巻が終わるが、
この修行があったおかげで、その後の戦で力を発揮している。
そもそも最初に、自分とは立場が違い過ぎる相手に無謀にも
会いにいくという信の行動力がなかったら、後の活躍に
つながっていない。
信は人たらしだと思う。
下僕の身分で文字も知らないくらいなので、
頭がいいかというとそうではなく・・でも人を気遣う気持ち、
人を惹きつける魅力は天性のもの。
短い期間にも、周りの人達の中で信の存在は大きなものに
変わっている。
下僕の身分からわずか数ヶ月で、普通では考えられないような
立場の違う人達との出会い。
それも、ぼーっと過ごしてたら向こうから来たというわけじゃなくて
信は自分からどんどん行動する。
自らチャンスを掴み取る。
そういうところも、主人公の信とこの物語の大きな魅力だと思う。