大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

キングダム二次創作小説 信と政の友情 言葉に出来なくても 

f:id:yukitarot1967:20190725225937j:image

 

☆言葉に出来なくても☆

 

漂は下僕の出であっても一応の礼儀はわきまえているのか、俺に対しては言葉遣いも丁寧で遠慮もあるようだった。
俺の近くで過ごし、立ち居振る舞いから声や話し方まで出来るだけ似せるように努力してもらわねばならないのだから遠慮は要らないと言うと、緊張感は抜けたようですぐに笑顔を見せるようになり、よく話すようになった。
元々朗らかで裏表がなく明るい性質なのだと思う。
言葉一つにも神経を尖らせ、相手の腹を探り合うのが普通の毎日だった俺には、新鮮な驚きだった。
「俺はそんなにお前に似ているか?」
「私も、ほんとにそんなに似てるのかなって思います。大王様の方が絶対美人ですよ」
漂はそう言って笑う。
屈託のない笑顔。
俺には出来ない表情だと思う。
俺はこんなに明るくもなければ朗らかでもない。
声を立てて笑った記憶など、覚えている限りではそういえば無かったように思う。
笑い方など忘れてしまったのかもしれない。
漂に会うまで、それが普通だったのでその事に気がつきもしなかった。

漂はよく、長い年月を一緒に過ごした信の事を話していた。
「友達というか兄弟みたいなというか・・・」
「今のように眠る前の時間いろいろ話したりしていたのか?」
「こんな綺麗な場所じゃなくて納屋の藁の上ですけどね」
「本音を言い合える同世代の友がいるというのはいいものだろうな」
「大王様は・・・」
「俺は周りが大人ばかりの中で育った。そういう友は居ない。いつかその信という奴にも会ってみたいものだな」
「ほんとに面白い奴ですよ。無礼だし馬鹿ですから大王様はきっと驚かれると思いますけど」
そう言いながら漂は楽しそうに笑っていて、信とは本当に仲がいいのだなと見ていて分かる。
そんな友人同士の関係というものを、共に鍛錬に励み夢に向かっていける相棒がいるという事を、心底羨ましいと思う。

「天下の大将軍になるとか二人で言いながら、正直ここに来てお聞きするまで、どうやったら将軍になれるのかすら知らなかったんです。戸籍が無い者は戦場に出る事すら叶わないなら、あのまま奴隷の生活を続けていたら普通一生無理だったわけですよね。・・・だけど信は・・・あいつは普通絶対無理な事でも何故かやってしまうような奴なんです。何でだかわからないですけど、いつもあいつと一緒にいるとどんな事も叶いそうな気がするんです」
「そうか」
漂が目を輝かせて信の事を話す。
まるで一番大事な宝物を披露するように。
その表情が眩しいと思う。
信という男にも、いつか本当に会ってみたい。
漂が話すのを聞いていていつもそう思った。
近いうち訪れてしまうかもしれないこの危機を逃れる事が出来たなら・・・
そんな日が来るのを楽しみに思った。

 

 

ムタを倒し、勝ったはずの信の様子がおかしい。
信の体が地面に崩れ落ち、何が起きたのかと驚いて側に寄ってみると毒矢が刺さっていた。
貂が応急処置をした後、背負って山道を走った。
何故そうしたのか、あまり考えてもいなかった気がする。

難を避けるためのただの剣だ。折れたら捨てて行く。
自分がそう言っていた事を、随分後から思い出した。

ここでは書を読めるわけでもなく退屈しのぎに何かするかと思っていると、擦り切れてボロボロになった信の草履が目に付いたので、それをゆっくり編み直した。

兄弟以上の絆がある一番大切な友人だった漂を殺したような相手に、助けてもらったと分かれば信は相当面白くないだろうなと思いながら黙々と手を動かして草履を直した。
俺の事は利用するだけだと言っていた。
きっと信は、そんな相手に借りなど作りたくない事だろう。

目を覚ました時、信は俺を漂と見間違えたのではないかと思う。
黒卑村で初めて会った時と、一瞬同じ目をしていた。
「なんか喋ってくれよ。黙ってられっと漂見てるみてぇでよ・・・」
その言葉が胸に刺さり、俺は非情になり切れていないのだと思い知らされた。

建物の周りを大勢の者が取り囲んでいる気配を感じた。
敵の襲撃かもしれない。
さっきの戦いでの傷もふさがっていないというのに、信は俺を後ろに庇うように立って剣を構えた。
「政!下がれ!」
信の声を聞きながら頭の隅で思う。
本当にお前は俺の剣になってくれるつもりなのか・・・これからも。


漂の最期の時の話を聞いた時、信の表情には悲しみは感じられなかった。
「漂。やっぱすげぇなぁ。お前は」
無二の親友を誇らしく思い、自然に溢れ出たこの言葉は信の本音なのだろうと思った。
昌文君を相手に剣の稽古をする漂を何度も見て、剣を習った事は無く自己流の鍛錬しかしていないと言いながら相当に腕の立つ奴だと驚いた事は覚えている。
信にしても同じだ。
腕が立つだけでなく、精神的な強さも並ではない。
自分よりも遥かに強いと思われる相手に、臆する事なく立ち向かっていく。
こいつらのこの強さは一体どこから来るのかと思う。

 

 

戦いが終わった後の王宮内に、数日ぶりに足を踏み入れる。
この数日で、あまりにも多くの事が起きた気がする。
まだ片付けられていない死体があちこちに転がっていて、床には血溜まりがあり、壁にも血が飛び散っているのを見て、ここで行われた戦いの激しさを思う。
信と貂が、俺の後から入ってきた。
「信。随分酷くやられたな。傷は大丈夫か?湯を浴びてから手当をしてもらうといい」
「お前も人の事言えねぇぐらいボロボロだぜ。その肩、服が赤いからわかりにくいだけで深いんじゃねぇのか?」
「・・ッ・・触るな!」
怪我をしている事はわかっていないだろうと思ったが意外に見ているようだ。
「政。勝ったんだからもうちょっと笑えよ。何だよその仏頂面」
「うるさい。こういう顔だ。ほっといてくれ」
「そうだよな。政、せっかく綺麗な顔してんだからもうちょっと表情あったらいいのに」
「だろ?ほんと無表情なんだよな。こいつ」
信が俺をからかうと、横から貂まで一緒になって言い始めた。
「うるさいぞお前ら。祝宴の前に叩き出すぞ」
「大王様のわりに口が悪いぞ、政」
「やかましい。お前らと居たらうつっただけだ」
「あっ!今ちょっと笑っただろ?政」
貂が俺の表情を見ていたのかそう言った。
笑っていると、自分で気がついていなかったがそんな表情になっていたのか。
「ほんとだな。さっきちょっと笑ったよな。お前笑ったら可愛いんだからそんなよくわかんねぇ笑い方じゃなくて思いっきり笑ってみろよ。ほら。こうやって・・」
「おい!何をする!?人の顔を引っ張るな!」

昌文君や他の臣下達が見たら激怒しそうな光景だろうなと思う。
信や貂から、名前で呼び捨てにされる事も「お前」「こいつ」呼ばわりされる事も、最初から決して不快ではなかった。
むしろ嬉しかったかもしれない。

漂が信の事を楽しそうに語った時、そんな友人が、仲間がいる関係を心底羨ましいと思った。
今、俺にもそんは仲間が出来たのかもしれない。
気を使わずにふざけ合い、共に死線をくぐってきた絆のある仲間が。[newpage]

今日まで着ていた緋色の衣は、砂埃と汗と血にまみれて見るも無残な状態になっていた。
汚れた衣を脱ぎ捨て、湯を使うと傷にしみるので水で体を洗ってさっぱりしたところで、大きな傷の無い腰から下だけ湯に浸かって目を閉じる。
このまま眠ってしまいそうなほど、心地よく体がほぐれていく。

用意されていた新しい衣に着替えて、もう祝宴が始まっている場所に向かった。
「政!」
後ろから呼び止められて振り返ると、信がこっちに向かって歩いて来ていた。
「見違えたぜ。政。そんな格好してっとやっぱお前綺麗だし王様らしいよな」
「お前は湯に入らなかったのか?」
「さっき入ったぜ」
「その格好・・・着替えが置いてなかったか?」
「あんなビラビラしたもん着られっかよ。どうやって着るのかわかんねぇしな」
信はさっきまで着ていたのと同じものをそのまま着ていて、この方が落ち着くと言って笑っている。
「一応水で洗ったんだぜ。着てりゃあそのうち乾くしな」


食べ物を山のように皿に盛った信が、ものすごい勢いで食べている。
山の民の避暑地で、貂が作った料理を皆で食べた時もこの調子だったから今更驚きはしないが本当に豪快だ。
「政。お前具合悪いのか?ほとんど食ってねぇじゃねぇか」
「普通に食べている。お前と一緒にするな」
「そんなもんばっか食ってねぇで肉も食えよ。お前もうちょっと太ってもいいだろ」
信は、手づかみで左右の手に一本ずつ肉を持ち、自分が半分かじった肉を、お前も食えと言って俺の口元に差し出す。
肉はあまり多く食べないが別に嫌いではないので、差し出された肉にかじりついた。

俺と信が座っている後ろは壁のはずなのに、ふと背後に人の気配を感じて振り返る。
「どうした?政」
「いや。何でもない」
気のせいだったのかと思った時、耳元ではっきりとその声を聞いた。
「大王様。信は私が言った通りの男だったでしょう?」
(漂・・・)
「そうだな。こいつはお前が言った通りの男だ」

「ん?何だ?政。聞こえなかったぞ」
自分に話しかけられたと思った信が俺の顔を覗き込む。
「何でもない。一人言だ。食べ物を口に入れたまま喋るな」
飛び散ってきたものを手で拭いながら信の頭を押しのける。

「信。漂の事は・・・残念だった」
思う事はいろいろあるが言い訳はしない。
俺に言えるのは、これが精一杯だ。
「あいつは俺の中で生きてる。あいつが託したと言ったお前と一緒に俺は夢を叶える。そうだろ。政」
「ああ。そうだな」