大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

二次創作小説 願掛け

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7月7日に書いた天火の誕生日小説。

 

☆願掛け☆

「失礼いたします。長。こちらに置かせて頂きます」
「ああ。そこに置いといてくれ」
無愛想な俺に慣れている皆は、部屋の中までは入って来ず、余計な世話を焼かなくなった。
この方がありがたい。
徳利に入った二合の酒。
そして盃が二つ。
その理由も誰も聞かず、黙って持ってきてくれるのが一番助かる。
この部屋には俺一人しか居ない。
文机と小さな箪笥が一つ、行灯しかない殺風景な部屋。
文机の上の書類を片付け、自分の前に一つ、その横に一つ、盃を置いて酒を注ぐ。
自分の盃を取って目線の高さまで持ち上げる。
「誕生日おめでとう。天火」

もう二度と会う事は叶わないと思う。
けどいつも、お前の誕生日は忘れた事がない。
雲神社での賑やかな天火の誕生日。
いつも皆の中心に居て、天火の周りには笑顔が絶えなかった。
あの暖かい場所を離れた日から俺は、笑い方も忘れたらしい。

 

食卓の上には所狭しと豪華な料理が並んでいて酒もたっぷりある。
普段は滅多にありつけない高級な酒も今日は遠慮なく飲める。
空丸、錦、宙太郎の三人が、皆が集まる前に忙しく準備をしてくれている。
今日は十数人で盛り上がる賑やかな宴会になる。
七月七日。
毎年皆が賑やかに祝ってくれる俺の誕生日だ。
体こそ不自由になったが、俺は本当に幸せだと思う。

ただ、思い出す度に心が痛むのが、居なくなったあいつの事を思う時。
空丸も宙太郎ももう諦めているのかその話はしなくなった。
錦は以前、ここに居る間は雲の忍にこだわってここを守ろうとした長の気持ちが今は分かると言っていた。
もし白子が戻ってきたら、表面では反応はそれぞれかもしれないが心の底から拒絶する者はここには誰も居ないだろう。
その、もし・・・という事さえ、思う事ももう無駄なのか・・・
ここに居た頃は家族として、俺の誕生日を賑やかに祝う皆の横で穏やかな笑顔を見せていた。
皆が諦めても、俺だけはどうも諦めが悪いらしい。
(帰ってきてくれ。白子)

 

 

 

 

「今年こそお前のために料理を作ってやろうと思ったのに何で毎年そんなに拒絶するんだ?」
フローリングの床に胡座をかいてクッションを抱きかかえた白子が、料理を作る俺を見上げて不満そうに言った。
「俺、作ってもらうより作る方が好きだからな」
「誕生日ぐらいゆっくりすればいいのに」
「十分ゆっくりしてるぜ。朝から休みだったからな。お前は残業まであって疲れてんだろ」
「もう慣れてるから大丈夫」

酒と、天火が作った簡単なおつまみ、買ってきた寿司を広げて、これから二人で誕生日を祝う。
「再会してから何年経ったっけ?」
「今年で五年だな。早いもんだ。もう何処にも行くなよ。白子」
「行く理由もないよ。俺の帰る場所はここしかない」
(俺が言っても信じてもらえないかもしれないけど・・・この言葉に嘘は無いよ。天火)
白子が二つの盃に上等の日本酒を注ぎ、一つを天火に手渡した。
「誕生日おめでとう。天火」

天火には言ったことがないけれど、俺は天火の誕生日に毎年一人で酒を飲んだ。
二人分の盃に酒を注ぎ、お前の誕生日を祝って。
風魔の里で過ごした前世は、来世での再会を願って。
転生したと知ってから再会するまでは今世での再会を願って。

願いが叶ったよ。天火。
これからはずっと側に居たい。
この命が尽きるまで。