大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

二次創作小説 曇天 遠い夏の日の・・

f:id:yukitarot1967:20190913091604j:image

雲家より風魔を選んだ壱助のその後の話。

雲家での思い出が時折心に浮かぶ事もあるのかなという・・

☆遠い夏の日の・・・☆

「申し訳ありません。長。騒がしくて・・」
女は子供の手を引っ張りながら壱助の方へ顔を向け、深々と頭を下げた。
「早くこっちへ来なさい!遊ぶんなら向こうで。ここで遊んじゃ駄目って言ったでしょう!」
「何でダメなの?ここの方が広いのに・・」
「駄目なものは駄目!いいからこっち来なさい」
子供の手を強く引っ張りながら、また壱助に向き直り頭を下げる。
「申し訳ありません」
「別に構わん。そこの場所ぐらい好きに使え」
「ほら。お母さん。長がいいって言ってくれたからいいでしょう」
「本当にすみません」
若い母親は困ったような顔で頭を下げた。

子供が手に持っているのは花火だ。
今では珍しくもないらしい。


母親が、子供をここで遊ばせたら騒がしくて俺に悪いと思っているのも嘘ではないとしても、一番の本音は俺に近づかせたくないという事だろう。
ここの新しい世代の者達は皆一様に同じ事を考えている。

隠れ処をここに定め、その頃年端もない子供だった者達が成長し親になった。
今は新しい世代の者達が主にここの生活を成り立たせている。
手工芸や商いは概ね成功し、経済的には皆豊かになった。
風魔の残党として政府に追われるような事も、心配なくなってからもう長い年月が経つ。

近しい者を殺し風魔になる忌まわしい儀式は俺が長になった時にすぐに廃止した。
今の若い世代の者達は、自分達が忍びであることすらもう忘れているのかもしれない。
むしろ忘れたいのかもしれない。
子供だった頃に見た、朧げながら残っている記憶は忌むべきものでしかないに違いない。
同族殺し。
風魔になるために自分の親や兄弟、姉妹を殺す。
間を空けず、あちこちで殺された者達の遺体が上がった。
それに反発し、長の命を狙う者も現れた。
その者が捕まれば拷問を受け殺された。
風魔の里の中だけでなく外でも、俺達は邪魔になる者は容赦なく殺してきた。
一族だけが全て。
一族の利益のためには平気で人を騙し、利用し、奪い、殺す。
俺達の世代では普通に行われていたそういう事が、新しい世代の者達の目には恐ろしいものにうつる事は十分に承知している。

「長!見て見て!綺麗!」
「こら!駄目でしょう!やめなさい!」
外へ出てみると、線香花火を手に持った幼い女の子が、得意げにそれを掲げて見せた。
「これ見て!すごく綺麗!」
「そうだな。綺麗だ。・・花火か。懐かしい」
「長も花火知ってるの?」
「ずっと昔にな。友達が見せてくれた」

「うわ!?何だそれは?!」
いきなり火花が飛び散るそれに、俺は驚いて飛び上がった。
「どうしたんだ?白子」
「白子さんがそんなに驚くなんて珍しいですね」
「白兄、花火知らなかったんスか?」
「白子がこんなに慌てるのって初めて見たよな」
天火が可笑しそうに笑い、三人とも笑い出した。
「武器でもないのに火が出るのか?」
「これは見て楽しむものですよ。白子さん。ほら。綺麗でしょう?」
「綺麗・・・か。・・・そうだな」
見て楽しむとか綺麗だとか、そんな感覚を俺は知らなかった。
そう思って見れば確かに綺麗だ。
実用的に使う蝋燭や提灯、行灯の炎とも違う。
燃える焚き火の炎とも違う。
色とりどりにに弾け飛ぶその炎は、幻想的だったり、どこか楽しげだったり・・
こんなものがあるとだとは知らなかった。
誰が考えたのか知らないが悪いものではない。

 

 

「長!どうしたの?」
気がつくと女の子がしゃがんで俺の顔を除き込んでいた。
「すまん。ぼんやりしていた」
「大丈夫?」
「花火を教えてくれた、昔の友達を思い出していただけだ」

f:id:yukitarot1967:20190913091646j:image