大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

15 二次創作小説第15話

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宇髄が煉獄家に来た日 煉獄杏寿郎

「絵を描きたければここでやってくれていいし、自分の家だと思って好きに使うといい。君の家と違ってフローリングの部屋はないが、縁側も使える」
「ここ一部屋だけでも俺のマンションの部屋より広いわ。奥がお前の部屋?」
「そうだ。離れに居るのはやめて、家族の近くに居ようと思ってな」
「その方がいいでしょ」
「千寿郎は両親と一緒に俺の部屋の向かいで寝ているし、その隣は倉庫で物がいっぱいだから人が忍び込める隙間は無い。俺と君の部屋の間は襖一枚だから、何かあればすぐ互いに助け合えると思う」
「俺の部屋の反対側は壁だな。入れるとしたら入り口は一つしかないからわかりやすい」
「俺も、君が隣の部屋に居ると思うと安心出来る。両親も弟も君の事は信頼しているし、自分の家だと思って寛いでくれるといい。敵からの攻撃の事ばかり考えるのもかえって良くないとかもしれないし、普段は楽しくやろう」


俺の家ではつい数日前、敵に家の中まで侵入されて、弟の千寿郎が連れ去られた。
同じ日に不死川の弟や、竈門少年の妹も連れ去られ、結果的に全員戻ってこれたからいいようなものの、俺達のやっている事は敵側に知られていて、家族構成や家の場所まで把握されている。

全員が集まる形としては最後の、学校の隠し部屋での会議の時、理事長もその事に触れて話していた。
出来るなら一人暮らしの者は誰かの所に行くなどして、互いを守り合う方がいいと。
ここ数年、影響力の出てきた発信者が、自殺に見せかけて次々と消されている事から、一人になるのは危険ということだった。
俺も、その通りだと思う。

ネットを通じての情報発信も、今年いっぱいかけてと思っていたけれど、敵側の動きが加速した事からこちらも急いでいこうということになった。
敵側からすると面白くないことをやっているのだから、いつ攻撃されてもおかしくない。
病院の地下や、治験をやっている施設に侵入したのが俺達なのも、もうバレているだろうし、SNSのアカウントも特定されているかもしれない。

そんな中で対策は無いか話し合って、俺の相棒の宇髄が今日荷物を持ってうちに来た。
自分のマンションを引き払ったわけではなくまだそのままだけれど、今日から基本的にここで暮らすことになる。

この前の会議で理事長は、どちらになるにしても今の流れは終わりに近づいていると言っていた。
理事長の言うことは、今までも大抵当たっている。
メッセージをくれている存在がいるというのも、関係しているかもしれないけれど。
自分達の命令通りに動く人間しか存在しない完全な監視管理社会を作って頂点に君臨したい彼らの思惑通りになるのか、それとは違う方向に行きたい俺達の願い通りになるのか。 
どちらの未来がこれから来るにしても、答えが出るのはそう遠い先の事ではない。
今年の終わり頃かもしれないし、もしかしたらもっと早いかもしれない。
それを聞いてすんなり受け入れられたのは、俺の中でもそんな気がしていたからかと思う。

彼らの作ろうとする世界から離れたいという気持ちを持つ人は、俺達だけでなく日本全体でも増えてきている。
それを分かっているからこそ、彼らは焦っていると思う。
この事も、会議の席で理事長が言っていた。
俺も発信を続けていて、たしかにそれは感じる。
人数としては少ない彼らの側は、皆が離れていくのを恐れているし、彼らにとって望ましくない行動をする者は片っ端から潰したいところだと思う。
この前の、井戸水に毒が入れられたらしい事件にしてもそうだ。

「伊黒は甘露寺の所に居るし、冨岡も不死川の所に行ったようだな」
「そぉみたいね。不死川んとこは家族多いから安心だし。伊黒はこれを機会に同棲スタートってとこでしょ」
「いい事だと思う。あの二人がお互いに想い合っているのは見ていて明らかだからな」
「恋愛に疎いお前でも分かんの?」
「あれだけ分かりやすいければな」
恋愛に疎いとバレているのは少々悔しいが、そこはスルーして答えた。

他にも、一番強い悲鳴嶼さんが護衛として理事長の所に居るし、竈門少年の所も家族全員で同じ部屋に寝るようにしたと言っていた。
芸能人その他有名人含め影響力のある発信者が突然死んだ時の状況は、同じ家に家族も居たという事も多いから・・・一人暮らしでなければ安心というもわけでもなさそうだが、出来るだけ数人以上で暮らすことでリスクは減らせると思う。

「今んとこ一番やばい発信してんのお前だし、弟が連れ去られたって事は家の場所も知られてるでしょ。気をつけてよ」
「承知している。君の発信も目立ってきているからお互い様だがな!」
「そろそろ出る?」
「そうだな」
俺は、宇髄と連れ立って家を出た。
今日は日曜で、時刻は夕方の六時を回ったところ。
以前から何度か使っている宇髄の弟が経営する店で、今日は数人で会うことになっていた。
全員で集まる会議が無い代わりに、数人ずつ好きなように集まって話す。
これからはそういう形になりそうだ。

 

弟の店での不審な火事 宇髄天元

個室でテーブルを囲んでいるのは、俺と煉獄の他、不死川と冨岡。
それぞれの配信内容を見せ合ったりしていつものように話していた。
今日は夜の七時ごろから、ここで夕食を取って少し酒を飲み、会議というより雑談に近い話しをしている。
弟の店を利用するのも今回でもう5〜6回目になるから、もう分かってくれていてすぐ個室に案内してくれる。
注文した飲食物を受け取った後は、個室の扉を閉めればこちらの話し声は外へはもれない。

弟は、俺達のやっている事を薄々知っているものの、余計な詮索はしてこなかった。
もちろん身内であってもちゃんと金は払っているけれど、普通ならそれでも、めんどくさそうな客は断られたりするものだ。
この店はけっこう流行っていて客が多いし、俺達ぐらい断ったって売り上げには響かないはずだけど。
それでも何も聞かずいつも、黙って個室を貸してくれる。
そういうところも本当に助かっている。

「お前のフォロワー増えるの、思った以上に早かったよなァ」
インスタの俺のアカウントを確認している不死川が言った。
インスタもユーチューブも順調にフォロワーが増えて、どちらも三万人を突破している。
「ここまでいくとは俺も思わなかったけど」
「身バレしてないだろうな」
今度は冨岡が、心配して聞いてくる。
「多分大丈夫だと思うけど。でもあいつらなら、どんな裏の方法使って調べてるかわかんねぇし。もしかしたら知られてるかも」
「マンションに一人で住んでたらまずいかもなァ。煉獄のとこ行って良かったんじゃねぇかァ」
「宇髄は強いとは思うが、あいつらどんな手を使ってくるかわからないからな」
「病院の地下のあれ見たからなァ。あいつら何でもありだろ」
「煉獄の家は両親、弟居るし、道場と書道教室に人いっぱい通ってくるし通いの従業員も居るし。一人になる事ってほぼ無いわ。あそこなら安全でしょ。今は皆んな近い部屋で寝てるし」
実際その通りなので、俺も自分のマンションより安全だと思っている。

「教科書では教えない隠された歴史かァ。煉獄のブログも閲覧数上がってんなァ」
ツイッターのフォロワーも相当多いな」
「思ったりより読んでもらえているらしい」
「顔出しもしてねぇし名前変えてるし大丈夫だとは思うけどォ」
「ここまで目立ってきたらお前もヤバいぞ。まあ俺が居るからいいけど」
「うむ。頼りにしている」

「追加の飲み物頼むか?」
「そうだな」
「俺は腹も減ってきた」
「さっきあれだけ食っただろうがァ」

皆んなでメニューを見始めた時、外が騒がしくなった。
いきなりドアが開けられる。
普段は黙って開ける事なんか無い。何事?!
「火事だ!すぐ逃げろ!」
弟が部屋の中へ入ってきて、もう一つある隣の個室との間のドアを開けた。
「そっちから出られる」
見ていたメニューを放り出して自分のカバンを引っ掴んだ。
開けられたドアの方へ急ぐ。
隣の部屋には、直接外に出られる非常扉があった。

外に出て建物の方を見ると、激しく煙が上がっていて、二階の窓が崩れ落ち、中には燃え盛る炎が見えた。
火が出たのは二階からのようで、部屋の中に居ると全く気がつかなかった。
見る間に天井が崩れ落ちていく。
あのまま部屋の中に居たら命が危なかった。

誰かが通報したらしく、すぐに消防車が到着した。

「お前が知らせてくれたから助かった。すまねぇ」
無事逃げられたのは弟のおかげだ。
「気にするな。つぅか俺の店の事だから迷惑かけたのはこっちだろ。全員逃げたから怪我人も居ねぇし、火災保険入ってるし何とかなるわ」
「けど明日から営業は・・・」
「せいぜいゆっくり休むわ。前も移転の時は休んだけど、再開したらまた皆んな来てくれるし何とかなったから。でも何で・・・火がでるようなもん二階に置いてねぇんだけど・・・・」
「二階って何に使ってたの?」
「在庫置き場。酒とか缶詰とか、あと書類とか。昼間しか上がることねぇから照明すら使ってなかった。鍵かけてるから俺しか入れねぇし」

もう深夜に近い時間帯で、今日はさすがに疲れた。
しばらくあの場に止められて全員事情を聞かれた後、帰っていいという事になった。
店からの帰り道は、四人で色々と話した。
弟から聞いた話しを考えてみても、どう見ても放火ではないかと思う。
それを皆で話していた時に、ちょうど連絡が入った。
ツイッターのタイムラインで、弟の店があるあの地域で「今日面白いことが起きるらしい」という投稿がいくつも流れていたと言う。
「ちょっと聞いたんだけど」というような内容ばかりで出どころも分からない。それに加えて、どこかの火事の映像がいくつも流されている。
スクショで送られてきたものを見ると、実際にそうだった。
「予告か・・・」
「放火確定だな」
「二階から直接侵入したのかもしれない」
これを見れば。全員考える事は同じ。
俺達があの場所を使っていることを、知っていたのか・・・・

 


気持ちを伝え合う 伊黒小芭内

甘露寺の家に来たのは初めてではないが、泊まることになったのは昨日が最初で、これからしばらく住む事になる。
しばらく・・・この状況が解決するまで。
今は、俺が勤務を終える夕方の時間に外で待ち合わせて、一緒に食事に来たところだ。
デザートの数も豊富なイタリアンの店で、甘露寺の食べっぷりを見ていると本当に気持ちがいい。
一緒に食べている俺も、普段より食欲が出てくる。

せっかく美しい女と美味しいものを食べながら、この話題もどうかと思うが、やはり情報を共有する者同士、昨日の話題になる。
あいつらが四人で集まって話している時に、宇髄の弟の店から火が出た。
放火に間違いないだろうし、SNSで流れたふざけた予告。
発信元のアカウントを突き止めたとしても、多すぎてどうしようもない。
一人の人間の仕業ではなく組織ぐるみなのが見えてくるし、この妨害工作が特権階級の奴らの仕業なら、隠蔽工作にも抜かりはないだろうし、政界にも警察や消防にも、奴らの手先は潜り込んでいると思う。

病院の地下、治験の施設、そこに侵入し攻撃を仕掛け、監禁されていた子供達を連れ戻し、今もSNSを使って奴ら計画を暴露し続けている。
そんな事をやっている俺達は、完全に奴らから目をつけられている。
火事の時だって、四人の中の誰かがもし逃げ遅れていれば死んでいたかもしれない。
どうせ関わっている全員の名前もバレているだろうし、俺達全員、いつ命が狙われてもおかしくない。

ひとしきりその事について話した後、不意に甘露寺が言った。
「伊黒さん。もし良かったらなんだけど、この事が解決した後も、うちにずっと居てくれたら嬉しいな。そしたらいつでも会いたい時会えるし。無理だったらいいんだけど私は・・・」
耳まで真っ赤になりながら言ってくるのが可愛い。
胸の奥から愛しさが込み上げた。
「居ていいのか?俺はもちろん嬉しい」
「ほんとに?ありがとう!すごく嬉しい」
「少しでも多く、一緒に居たい気持ちは俺も同じだ」
テーブルの上で、伸ばした指先が触れ合った。

「頭のいかれた奴らが仕掛けてくるこんな面倒な問題、さっさと終わらせよう。これが終われば今度こそ平和になった世の中で、共に歳を重ねながら生きられる」
「そうだよね。そのためには私も頑張る」
死力を尽くして戦い、若くして命を散らした前世を悔いてはいない。
けれど今度は、好きな相手と生き続ける未来を体験してみたい。
今世でも出会えた仲間にも、誰も死んで欲しくない。
「一人じゃないし、前以上に仲間が沢山いるし、今は、会ったことない人達とも沢山繋がれる時代だし、情報拡散できてるよね。だから大丈夫だと思う。私達もみんなも、誰も死んだりしない」
俺の考えている事が伝わったのか、甘露寺が力強くそう言ってくれる。


帰り道、今までなら途中から違う方向へ帰っていたのが、今は同じ場所へ帰れる。
これだけでも俺にとっては最高に嬉しい変化なのだが、今日はお互いの気持ちを確かめ合うことが出来た。
今の状況の中気を抜いてはいられないが、奴らが俺達を狙ってきたとしても、こんな事で立ち止まっている場合でもないし死んでいる場合でもない。
俺達には、これから一緒に生きていく未来がある。

信号を待っている時に着信音が鳴った。
甘露寺の方も同時にだ。
一斉送信の連絡ならメールかラインで来るはずなのに、わざわざ電話?
緊急の何かか?
確認すると、非通知の番号だ。誰?
その時、隣に誰かの気配。殺気を感じた俺は、並んで歩いている甘露寺の腕を掴んでを引き寄せなから、反対側の利き手で武器を抜いた。
武器に手をかける前に肩口に鋭い痛みを感じたが、構わずそのまま武器を抜いて、近づいてきた相手に向けて突きを入れる。
急所は外したか?飛ばされた相手は尻餅をついて転がったが、次の瞬間にはすぐ起き上がって走った。
信号が青に変わり、人の波が移動する。
周りの人を突き飛ばしながら逃げていく男に、悲鳴が上がりざわめきが起こった。
甘露寺!大丈夫か?」
「さっき引き寄せてくれたから、まともには切られてない。大丈夫」
「どうした?!怪我を・・・」
「私は大丈夫。逃げた男は?」
あっという間に人混みの中に消えた、逃げていく男を追いかけるのはもう無理だ。
特徴や人相すらまともに見れなかった。
それに、相手は一人ではなかったのか?

「電話を確認してる時、伊黒さんが引き寄せてくれて、痛いと思ったらもう切られてた。でも多分大したことない」
反対側からも、もう一人来ていたらしい。迂闊だった。
「ごめんなさい。私、切られるまで気がつかなくて。すぐに離れていった相手の顔を確認する事もできなくて・・・」
「そんな事はいい。傷を見せてくれ」
傷があるのは左肘の近く。刃物で刺したような傷は小さかったが、動脈を傷つけたらしく、血が止まらない。
俺はタクシーを止めて、すぐに病院へ向かった。


次の策を考える 不死川実弥


俺は数日前から、一人暮らしをしていたマンションは借りたまま、両親と兄弟の居る家に帰ってきている。
冨岡も俺の家に来て、今の状況が解決するまで暮らす事になった。
家族全員と、冨岡も合わせて皆んなで同じ部屋に寝ることも考えたが、そんなに広い部屋はうちには無かった。
一人暮らしを始める前に俺の部屋として使っていた四畳半を冨岡に明け渡し、俺はその隣の玄弥の部屋で一緒に寝ることにした。
両親と他の兄弟達は、玄関から一番近い、広い部屋にいる。

一昨日は宇髄の弟の店で、放火と思われる火事が起きて、昨日は伊黒と甘露寺が外で襲われた。
どちらも犯人はあがっていない。
敵側も焦っているのか次々と仕掛けてきている。
理事長が言うように、逆にそれだけ終わりが近いということなのかもしれない。もうすぐ決着がつくということか。どちらにしても。

今のところ自分に直接何か起きたわけではないけれど、無意識にずっと気を張っていると思う。
このところ疲れが抜けにくい。
情報拡散がうまくいっているかどうかも、毎日確認している。

当たり障りのない内容でフォロワーを増やしてから、伝えたい情報を少しずつ流し始めた悲鳴嶼さんや俺達のアカウントにも、反応が増え始めた。
学生組もかなり頑張っている。
理事長と校長のアカウントは、フォロワー数が五万人を超えている。
俺達のやっていることと知ってか知らずか、同じ学校内の職員や生徒が、内容に好意的なコメントをつけて拡散してくれている。
職員も生徒もそれぞれ一人一人に、自分のつながりがあるから、そこから先にもかなり広がっている。
権力者側との間に太いパイプのある奴らは、自分達に不利な情報は拡散させないように、あの手この手で妨害してくる。

けれどここまで増えてくれば、この流れを完全に止めることは出来ないはず。今は、武力を使う戦いよりもむしろこっちの効果の方が大きい。
一人一人の力は小さくても全員の力を合わせれば、奴らの企てを潰すことができる。


考え事をしているうちに眠ってしまったらしい。
廊下を通る、誰かの気配を感じる。
奥にトイレがあるから、家族の誰かが起きて俺達の部屋の前を通って奥へ行くことはある。
けれど・・・足音がしない。
俺は、誰か居るならそいつに気付かれないように、そっと音を立てずに布団からすり抜けた。
玄弥は隣の布団で、全く気付かずによく寝ている。
廊下にはすでに誰も居ない。たしかにさっき・・・

冨岡が寝ている部屋の扉を、俺は音を立てずに開けた。
「誰だ!?」
侵入者は完全に不意を突かれたらしい。
暗闇の中で振り向いたそいつは、けれどすぐに反応して突進してきた。
狭い部屋の中では僅か一歩の距離。
今度はこっちが一瞬反応が遅れて、そいつは入り口に居た俺を突き飛ばし、廊下へ逃げて行った。
捕まえ損ねたが、そいつを追いかけるより冨岡の事が気になった。
壁際の部屋の電気をつける。
部屋の中央に敷いてあったはずの布団は、二つ折りにして退けられている。
その布団の向こうに冨岡が、意識を失って倒れていた。
一瞬死んでいるのかと思って息が止まりそうになる。
すぐに近づいて、息がある事を確認してホッとした。
首に巻きついているのは布製の紐で、腕力のある男が力を込めて引けば
数十秒で命を奪えると思う。
あと一分来るのが遅かったら、そうなっていたかもしれない。
それを思うと背筋が寒くなる。
「大丈夫か?」
声をかけても反応は無いが、おそらく眠らされているだけのようだから心配は無い。
巻きついている紐を外して、布団を引っ張ってきてその上に寝かせておく。
最初ここに入った時、薬品の匂いが微かに残っていた。
眠っている時に侵入し、薬を嗅がせて意識を失わせ、その間に殺害する。そういう手口でやろうとしたのだと思う。

玄弥や煉獄の弟、炭治郎の妹が連れ去られた時、どういう状況だったか聞いている。
その時と同じ手口だ。
ただし今の場合、目的は連れ去る事ではなく殺害することだが。
俺達と同じように奴らに逆らう情報を流している影響力のある発信者が、何人も不可解な死を遂げている。
遺書も無く自殺を仄めかす様子もなかったのに、ある時突然部屋で首を吊って死ぬという事件は年々増えている。 
絞殺した後に自殺に見せかける事は、そういう事を常にやっているような人間なら、ものの数十秒で片付けてしまうだろう。

もっと気をつけていなければ。家に侵入された事自体迂闊だった。
これでこっちも警戒するから同じ場所をあえて狙わないだろうとは思うが・・・念のため明日から無理矢理でも全員一緒に寝た方がいいかもしれない。

 


報告を聞く 煉獄杏寿郎

伊黒と甘露寺が襲われたと聞いて、俺は宇髄と二人で病院に行った。
宇髄の弟の店であんな事があった、すぐ後のことだ。
緊急手術を終えて一日入院の間は、俺達も泊まりで付き添った。
他の皆も心配して見舞いに来ていた。
学生組は夜には帰らせたが、それ以外のメンバーで交代で付き添った。
隠し部屋で全員で集まる会議はこの前が最後という事だったのに、皮肉にもこの事で、病院に全員集まる形になってしまった。

甘露寺は、動脈を傷つけられて出血が多かったけれど、傷は大きくなくて意識はしっかりしていた。
伊黒はかなり深い傷を負ってしまい、それでも後遺症が残ったりはしないらしく不幸中の幸いだった。
敵がどこに潜んでいるか、どこから侵入してくるか分からないため、病院に居ても安全とは言えない。
病院に頼んで翌日には退院させてもらい、胡蝶の家でみてもらう事になった。
武力で戦う戦線からは離脱したけれど情報拡散なら座ってでも出来ると言って、二人とも頑張ってくれている。
熱が出るような事もなく、体調はいいらしい。
俺も前に矢傷を受けた時薬のおかげで助かったが、それと同じ物を胡蝶が出している。
刃物に毒が仕込んであった可能性もあるから。
薬の研究でカナエ先生もこの場所に一緒にいて、色々と手伝ってくれて心強い。

学校は数日前から夏休みに入っている。
夏休みの間、職員もほとんど学校に行かなくていいのは、理事長がうまくそれで回るように考えてくれているからだと思う。
「この状況は終わりに近づいている」ということも理事長は繰り返し話してくれて「夏休みの間に何とかなるといいね」と皆で話した。
彼らの支配から遠いところで、平和に生きたいと思う。

病院で会った時、俺にとっては初耳の話題を、理事長が話してくれた。
「本当に今正念場に来ているね。彼らに不利な情報の拡散は日に日に加速しているから、向こうも相当に焦っていると思うよ。だから立て続けに色んな事を起こしてくる。一時は、都心から離れた場所に学校ごと移転しようかとも考えたんだけどね。コミュニティーを作っていた人達のところで起こされた事件のことを考えると・・・場所を変えても意味がない」
「井戸水に毒が入れられたらしい事件のことですね」
「そういうことをいくらでもやってくるからね。前に言ったように、こちらが組織としてまとまってしまうと彼らにとっては潰しやすい。それを考えと、それぞれが勝手にバラバラに動く方がいい。彼らの頂点に居る存在の事も、私はそろそろ情報で出していこうと思うし・・・そうなると彼らの攻撃はもっと激しくなるかもしれないけどね」
「彼らは意識体の存在なんですよね」
「基本はそうだけど、物質の体を持つこともできる。もっと昔は、人々の前に体を持って現たりしたらしいけれど、姿を見せない方が謎めいた恐ろしさを醸し出して恐怖で支配することができる。そう気がついた彼らは姿を見せなくなったんだ。彼らの血を濃く受け継いだ、彼らのすぐ下にいる人間達も居るし」
「大正時代に鬼が居た時と、何か同じような状況ですね」
「鬼に似ているところもそういえば多いかもしれないね。自分達と似た種族を作るため、血を分け与えて一族に引き込む。不老不死を求め、支配欲が強い。そういえば彼らの目の形も鬼と同じ、瞳孔が縦長になる爬虫類のような形だからね」
「けれど彼らは鬼のように不老不死ではないんですね。だからアドレノクロムのようなものを求めたがる」
「それを使ってるのは、主に彼らの血を濃く受け継ぐ人間達だね」
「これからそういうことも、情報で流していくのですか?」
「私以外にも知っている人はいるからね。もうすでに流れているよ」

この日の夜、宇髄と一緒に帰って夜休んでいたところ、明け方になってまた連絡が入った。
不死川の家で、冨岡が殺されかけたというのを聞いて本当に驚いた。
それでもとにかく無事で良かった。
絶対に殺そうというより、いつでも殺せるぞという脅しの意味もあったのかもしれない。

「宇髄。夜は部屋を別にしない方がいいかもしれない」
「俺は眠り浅い方だから人なんか入ってきたらすぐ起きるとは思うけど。
お前のが心配だわ」
「俺はそう簡単に殺られないつもりだが。けれどたしかに君よりは、熟睡してしまう方かもしれないな」
「あの手口だったら強いも何も関係ないからね。眠ってる間にあの世に行っちまったら終わりだから。今日から夜はお前の部屋行って寝るわ。それだったら安全でしょ。何なら皆んなが寝てる部屋との境目、半分ぐらい襖開けといたらいいんじゃない?いくらなんでも五人もいるとこに入ってないでしょ」