大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

二次創作小説 曇天

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曇天に笑う 二次創作小説

風魔の双子。壱助、壱雨の話。

外伝まで読んだ人でないと分からない部分あり。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

約束

 

今日は月明かりもない。

暗い夜。

蝋燭の灯りだけが、ぼんやりと部屋の中を照らしている。

(一人になるとほっとする、、、)


壱助は自室の寝台の端に腰掛けて、蝋燭の炎を見つめている。


崖から飛び降りた時は死ぬつもりだった。

母様と壱雨を頼むと言われたのに、父様との約束も守れなかった。

壱雨を守るために母様を見捨てて殺した。

そうまでして守った弟も死なせてしまった。

宿願を果たす事も出来なかった。

何も守れなかった自分はこれ以上生きている価値もない。


こんな自分でも、あの世で会えたら父様と母様は、壱雨は許して
くれるだろうか、、、

帰りたい。家族のいるところへ。


そう願ったのに死ねなかった。


死ねなかった自分を頼ってくる仲間を見捨てるわけにはいかない。

風魔の長として、その役目は全うしなければならない。

 


隠れ処となりそうな場所を見つけて、何とか落ち着いてから数ヶ月
が過ぎた。

(この場所が発見されそうになればまた移動しなければならないが、
とりあえずしばらくはいられそうだ、、、)

落ち着くまでの間は常に周りを警戒し、夜もほとんど眠らなかった。

ゆっくり自分の感情と向き合う余裕すらないその緊張感が、皮肉に
も、家族を全て失った寂しさを紛らわせてもくれていた。

落ち着いたら落ち着いたで、周りに皆がいる時間は気を張っていら
れるが一人になると虚無感と寂しさが襲ってくる。

それでも、一人になれる時間に壱助は安らぎを感じていた。


「壱雨、、、俺はまだ当分の間死ねないのか、、、」

割れた狐面に語りかける。

暗い牢獄の中で十年もの年月、壱助を信じて、待っていてくれた弟。


雲家に入ってから変わっていくように見えた壱助に、不安を覚えな
がらも信じて待っていてくれた弟。

「お前は一人でも長になれる」
そう言って自分は命を捨てて、これからを壱助に託した弟。

風魔になる事が夢だったというのに、、、

幼い頃、壱助をかばって腕に深手を負ったために、忍びとしては力
を発揮することなく、外に出て力をつけていく壱助を複雑な思いで
見ながら洞窟の中で隠れて生きなければならなかった弟。

もしあの時怪我をしたのが自分だったら、隠れて生きる立場は入れ
変わっていたのだろうか。

(俺のせいで、、、俺の犠牲になる事だけが壱雨の人生だったのか、、

何故、、、)

胸が苦しくなる。目の奥が、喉の奥が熱くなる。

涙は溢れ出すと止まらなくなった。

隣の部屋にいる他の者に聞こえないように、壱助は声を殺して泣い
た。


蝋燭の炎がゆらりと揺れた。

その動きはだんだん大きくなる。

(風はないはずなのに、、、)

炎は勢いを増して、小さな生き物のようにユラユラと揺れている。


壱助が、不思議な動きをする蝋燭の炎を見つめていると、やがて

その炎の後ろに白い人影が浮かんだ。

何が起きているのかと見ていると数秒のうちに、それは人の形に

なっていく。

「壱雨、、」

火傷の跡はない。死んだ時の年齢より若くまだ二十歳前の、少年
の面影を残した姿、黒髪で黒目だった。

里にいた頃、一緒に育った弟の姿がそこにあった。

「壱雨」

呼びかけて触れようとすると、人影はスッと後ろへ下がった。

「触るのは無理だ。でも俺はここにいる。その情けない顔は何だ」

たしかに壱雨の声だった。

目の前に現れたこの人影が話しているのか、自分の頭の中から声が

響いてくるのかわからない感覚。

でもたしかにはっきりと聞こえている。


「お前なら一人でも長になれる。そう思ってお前に託したのに何
で勝手に死のうとする?」

「、、、俺は何も守れなかった、、、家族をみんな、、、殺して」

言いながらさっきまで以上に涙は溢れ出して止まらない。

自分が家族を守れなかった事への後悔なのか、壱雨の姿を見て声
を聞いている嬉しさからなのか、壱助は何で自分が泣いているの
かもわからなくなってきていた。

それでも涙は止まらず、声を上げて泣いてしまいそうになるのを
必死になって堪えた。

「何を泣いている。お前は風魔の長だ。その情けない顔はやめろ」

言葉はきついけれど、その声はどこか優しい。

「俺は今、父様と母様と一緒にいる。いつまでも自分がいたいと
思う年齢や姿でいられるこっちは悪くないぞ。行きたければどこ
にでも自由に行けるしな。
風魔の長としての立場をお前に託した事を俺は後悔していない。
だから勝手に死ぬな。
いつかお前も死んだらまた会えるし家族で一緒にいられる。
それまでは皆のために頑張って生きろ」

壱雨の表情は柔らかく、暖かく語りかける。

「俺は、、、お前に雲家にいて情がわいたかと聞かれた時違うと
答えた。、、、でもそうではなかったかもしれない。俺の半端な
気持ちが、お前を殺す事につながったのではないかと、、、」

心に引っかかっていた事を言葉にする。
その答えを聞くのが怖くても聞かずにいられなかった。

「そんな事は知っている」

「え?」

「お前は顔に出やすいんだよ。里にいた頃から変わってない。
最初から野心家だったわけではない、家族四人で里で平和に暮ら
すのが夢だったようなお前の事だ。雲家の兄弟に、理想の家族の
形でも見たんだろう。」

「、、、、。」

「それでもお前は最終的に俺を裏切らなかった。だからお前に託
したんだ。信じている。」

「そこまで、、わかってて、、、」

「当たり前だ。お前は俺だ。お前の考えている事ぐらいわかる。
いつまでも泣くな」

そう言われても涙は止まらない。

でも、胸の中に暖かいものが広がっていった。

「約束しろ。勝手に死ぬな。時々来て見守ってやるから」

壱雨は笑った。

「わかった。約束する。勝手に死んだりしない」

「安心したよ」

もう一度柔らかく笑って、人影はフッと消えた。

大きく揺れていた蝋燭の炎が動きを止めた。

「壱雨!!」

思わず大声で叫んだ後、自分の声に驚いて我に返る。

 

「長!どうされましたか!?」

隣の部屋の扉が勢いよく開いて部屋の外から呼びかけられる。

「驚かせてすまない。なんでもない。夢を見たようだ」

泣き顔を見られるわけにはいかないので扉は開けずに、何とか

落ち着いた声で言えた。

 

約束する。

いつかお前や父様母様とそっちで会えるまで、俺は風魔の里を
守る。

勝手に死んだりしない。

もうお前に心配させたりしない。

 


悲しみや寂しさは消えて暖かい気持ちが胸に広がっていく。


「壱雨。ありがとう。今日は久しぶりによく眠れそうだ」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

夏の夜の幽霊

 

大蛇討伐から二年。

隠れ処を定め、皆の生活も落ち着いてきた。

大津の町からそう遠くない場所でありながら、

今のところまだ風魔の里が見つかる心配はな

さそうだ。

とは言え、あの事があってからまだ長い年月

が経ったわけではないので安心は出来ない。

国家に敵対する事をした自分達は、見つかっ

て捕まればただでは済まない。


このまま何とか見つからずに年月が経つのを

待ちながら、黒髪黒目の子供が成長する頃に

は少しずつ町に馴染み、普通の暮らしが出来

るようになるまで皆を導き、守っていかねば

ならない。

 


十代目風魔小太郎は、強く聡明で、統率力、

決断力もあり、際立って美しい容姿が彼の

カリスマ性を増す要素となっていた。

若いながら威厳があり、年上の者達からも

一目置かれている。


無表情で笑う事もないかわりに、滅多に声を

荒げて怒るような事もなく穏やかでもあるの

で、皆からは慕われている。

それでも必要以外はいつも一人でいる事を好み、

皆と一緒に夕食を楽しんだり酒を飲んだりする

事はなかった。

 

 

皆が楽しくやってくれて笑顔と笑い声が溢れ

る様子を見るのは嫌いではない。

家族が笑って暮らせるようになる場所を作る

事は自分にそれを託してくれた壱雨の願いで

もある。

あの戦いの後、生き残った者達が自分にとっ

ては家族。

崖から飛び降りて死のうとして、死ねなかっ

た自分が生きる意味を見つけたのも皆がいた

からだと思う。

それでも、俺の本当の家族はもういない。

父も母も弟も死んでしまい、残ったのは自分

一人。

雲家で理想の家族の姿を見て、その中に自分

も入っていた時は確かに救われていたのかも

しれない。

最初から、それを終わりにする時が来るのを

分かってはいたけれど。


気を使わず自分を作らず対等に話せる相手が

いたのは、風魔の里で長になる前までの子供

時代と、雲家にいた十年。

今は、対等に話せる者は周りには誰もいない。


ここでは、皆の前では、風魔の長としての自

分でなければならない。

弱いところなど微塵も出してはならない。

そう思って生きている。

 

 


風魔になる前、壱助の願いは家族四人で里で

幸せに暮らす事だった。

元々野心があって頂点に立つ事を夢見ていた

ような性格ではなく、長になったのも、自分

のためと言うより成人の儀ばかりに熱心な九

代目長のやり方を変えて皆が幸せに暮らせる

里を作りたかったからだった。


忍びは命令でしか動けない。

これから先、次の世代が大人になる頃にはそ

れも変わるだろうが、今は誰かが上に立って

導いていくという形でなければ皆は生きてい

けない。

それがわかっているので、あえてそれに相応

しい自分を作っているところもあった。

 

 


一人で自室にいる時間は、最も心安らぐ時間

だった。

風魔の長になる前の自分に戻れる。


以前は家族を思い出し、里で皆が家族と幸せ

に暮らす様を見る程に嬉しくもあったけれど、

自分にはそれがない事を思い知らされるよう

で辛くなる時もあった。


自室で一人になった時、やはりそんな気持ち

になり、誰にも聞かれないように声を殺して

泣いた事もあった。


最初に壱雨が自分の前に姿を見せてくれたの

も、たしかそんな時だった。


幽霊というものを初めて見たわけだが、怖い

とは少しも思わなかった。

壱雨の今の様子も、今の気持ちも、一緒に生

きていた頃の気持ちも全て聞くことが出来た。


人は輪廻転生を繰り返し、肉体はその度に変

わるけれど魂はずっと死なないというのは何

度も聞いた事があったけれど、それは本当な

のだと今は確信している。


触れる事は出来なくても壱雨の姿を見て、声

を聞いて、会話もできた。

一人で泣いていた壱助に、情けない顔はやめ

ろと優しく叱りながら、慰めて励ましてくれ

た。

自分には家族はもういないしずっと孤独だと

思っていた壱助にとって、それは願ってもな

い救いだった。


その後も何度か自室で一人でいる時に壱雨は

出てきてくれたし、里で皆といる時も、姿は

見えないが今来てくれているのではと感じる

事があった。


「お前が危ない時、困った時は必ず助けてや

るから安心しろ」

そう言ってくれた。

 

 

もっと頻繁に出てきてくれればいいのにと思

っていたけれど、壱助が頼りすぎてはいけな

いと考えているからかそんなに頻繁に出てき

てはくれなかった。


それでも、ただ肉体がなくなっただけで、今

でも二人で一人。

いつも一緒にいると感じる事は出来た。

それがあるから頑張れる。

壱助にとって一番大切な心の支えは、時々会

いに来てくれる壱雨の存在だった。

 


その日、壱助は朝から体調が悪かった。

肉体的にも精神的にも疲れは溜まっているので

そのせいなのか、もしかして風邪でもひいてし

まったか、、、

体がだるく、頭がズキズキと痛んだ。

その事を皆に気づかれるわけにはいかない。

余計な心配をさせてしまう。


何とか丸一日我慢して平気な風を装い、夜自室

で一人になった時はホッとした。

夜になっても体がだるく頭痛もひどかった。

熱が出てきたかもしれない。

このままでは明日起き上がれるかどうかあやし

い気がする。

どうしたものか、、、

そういえば以前、体調が悪かった時に薬草を煎

じて飲んだら良くなったのを思い出した。

まだ子供の頃の記憶だ。

何を使ったらいいのかまでは思い出せない。

そういう事は壱雨の方が詳しかった。

「壱雨。助けて、、、」


明るい照明を置くと霊は見えにくいのでわざと

蝋燭の灯り一つだけの暗い部屋で、壱助は呼び

かけてみた。

いつも壱雨の気まぐれで出てきてくれるのを待

つだけで、自分から呼びかけた事はなかった。

 


風もない部屋で、突然蝋燭の炎がゆらりと大き

く揺れた。

(来てくれた)

 

 

 

「大丈夫か?歩けるか?」

壱雨が心配してくれている。

生きている自分が、幽霊に心配されているのも

変な感覚ではあるが。

向こうでは、前の人生で生まれてから死ぬまで

の間のどの時期でも、好きな年齢の時の見た目

になれるらしい。


いつも出てくる時は、まだ風魔の里にいた頃の

少年の外見なのだが、今日は二十代半ばの壱助

の年齢とあまり変わらない感じの外見で来てく

れている。

死んだ後はどんな見た目にもなれるので火傷の

あとなどの傷はなく、髪が少し長めなのを除い

ては壱助とそっくりな外見だった。

「もし何かあったら、俺がお前のふりをして身

代わりになってやるから逃げろ」

そう言ってくれていた。

幽霊というのは足がないとか聞いていた事もあ

ったが実際はそんな事はない。

見た目はほとんど生きた人間と変わらない。

違う事と言えば、現れるのも消えるのも自在と

いう事と、触れる事は出来ないという事。


壱雨が先に立って、薬草の取れる場所まで案内

してくれた。

体は鉛のように重かったが、何とかここまで辿

り着く事が出来た。

「頑張ったな。無理するな。ゆっくり戻ればい

い」

壱雨の言葉は優しい。

風魔の里では、壱助の方から誰かに甘えたり頼

ったりという事は出来ないので、唯一自然に自

分を出せるのは、本当に心安らぐ時間だった。


薬草をいくらか摘んで、帰り道を歩く。


まだ体は辛かったが、後はもう帰るだけだと思

うとホッとする。


安心したのと、まだ熱っぽくて頭がぼーっとし

ていたのとで、警戒心が薄くなっていたのかも

しれない。

「おい。止まれ」

すぐ近くで呼び止められるまで、人の気配に気

がつかなかった。

(しまった。警官か、、、)

「そのまま動くな」

壱助は足を止めた。

「どうした?!いたのか?」

すぐに走ってくるもう一人の警官の足音が聞こ

える。

「いや。違う。あいつじゃない」

「風魔か」

違う事件の犯人を追っていたらしい。

運の悪い事に、偶然にも出くわしてしまったわ

けだ。

国家に反逆するあの事件の首謀者。

自分の顔は知られているだろう。


体がこの状態であっても、警官を二人とも殺し

て逃げるなら容易い。

でもそんな事をすれば後で大変な事になる。

この場所は、隠れ処からあまり離れていない。

後で死体が発見され、警察に犯人を探してこの

辺りを嗅ぎ回られては、里の皆を危険に晒す事

になる。

(どうしたものか、、、 )

 

 

 

 

「こんなところで風魔小太郎を捕まえられると

はな」

「俺達にも運が向いてきたか」

結局、壱助は抵抗する事なく捕縛されてしまっ

た。

壱雨の声が耳元で聞こえ、

大丈夫だ。抵抗して無駄な体力を使うな。

後ですぐ俺が何とかしてやるから任せろ。


そう言われたので信じて任せる事にした。


警官に引き立てられて、里とは反対の方向に向

かって歩かされる。

体は重く、歩くのもやっとだった。

警官達に体調の悪さを悟られはしていないよう

だが、、、


今夜は夜になってもまだ蒸し暑い。

月が雲に隠れて辺りが少し暗くなった時、生暖

かい風が吹いた。


道の行く手に人が立っている。

「誰だ?!動くな!」

警官の一人がその人影に一歩近づく。

着物姿のその男が、ゆっくりとこちらを振り返っ

た。

「、、何?!」

風魔の特徴である白髪。紫眼。

しかも今捕らえている壱助と瓜二つの顔だ。

壱助はたしかにこちらにいるのを確かめて、もう

一度その男を見る。

「そんな事で俺を捕らえたつもりか?」

ゾッとするような冷たい声。

「生きて帰れると思うな」

男が苦無を構えて一歩近づいた。

「止まれ!」

警官が銃を抜いた。

構わず踏み込んだ男の足を狙って引き金を引く。

乾いた銃声が響き、弾丸は確かに当たったはずな

のに男の体を通り抜けた。

それを目の前で見たもう一人の警官も、壱助を縛

った縄の縄尻を取っていた手を思わず離し、銃を

抜いた。

続けて数発、今度は体の中心を狙って撃つも、弾

丸は全て男の体を通り抜けた。

「それで終わりか?」

男は唇の端を釣り上げ、不敵に笑う。

警官二人は、真っ青になって震えだした。

「おい。まさか、、」

「幽霊か?!」

前にいる男を見て、先程捕らえた壱助の方を振り

返って見る。

壱助を縛っていた縄が、ぱらりと地面に落ちた。

同じ姿をした風魔の忍びの二人に挟まれ、警官二

人は生きた心地がしなかった。

「俺はもう生きた人間ではない。何をやったって

無駄だ。お前達を殺す位容易くできる」


「た、助けてくれ」

「来るな!止めろ!あっちへ行け!」

二人の警官は叫び声をあげながら、這々の体で

逃げ出した。


壱雨は本当に面白そうに笑った。

楽しんでいるらしい。

幽霊にこんなに表情があるのかと、妙なところで

壱助は感心した。

「体は大丈夫か?」

「ああ。何とか歩ける。助かったよ。言われた通

り余計な体力を使わずに済んで良かった。ありが

とう。壱雨」

「明日になれば幽霊が出たと噂になるだろう。お

前がもう死んでいて、幽霊になってこの辺りに出

るという噂になれば、誰もここに近づかない。里

は安全だ」

「本当に助かった」

壱助は、壱雨に笑顔を向ける。

あの時崖から飛び降りた自分は、生きているか死

んでいるか不明という事になっているはず。

死んだと思ってもらえれば、これから先捕まる可

能性も減る。


「お前は普通に縄抜けしたんだろうが、それも幽

霊だからと思われただろうな。何もかもうまくい

った」

壱雨は満足そうに笑って話した。


「ありがとう。俺が危ない時、困った時は必ず助

けるって壱雨が言ってくれたから。信じてた」

壱助の嬉しそうな笑顔を見て、壱雨は少し照れた

ように笑う。

「これからもずっとそうだ。困ったらいつでも頼

ってくれ」

壱雨は帰り道も、壱助の体調を気遣い、一緒にゆ

っくり歩いた。


触れる事は出来なくても、すぐ近くにいて言葉を

交わす事も、視線を交わす事も出来る。

確かにその存在を感じる。

壱雨が生きている時はどちらかというと兄として

壱雨を守っていくという気持ちの方が強かったか

もしれないが、今は自分の方が壱雨に頼っている

気がする。

壱雨が許してくれるならそれも悪くない。

 

自分の部屋に戻り布団に入って横になった時、壱

助は心底ほっとした。

壱雨の教えてくれた通りに薬草を煎じた液体を、

寝る前に飲んだ。

恐ろしく苦いがよく効きそうだ。

明日の朝にはかなり楽になっているはずだと壱

雨が言った。

部屋で横になってからも、壱雨はまだ側にいて、

見守ってくれていた。

「眠るまで居てやるから。安心して休め」

 


俺は孤独ではない。

壱雨がずっと側に居てくれる。

いつまで生きるかわからないが、この命が尽きて

壱雨と父様と母様のところへ行く時が来るまで、

壱雨が俺を守ってくれる。


壱助の胸の中に、暖かい安心感が広がっていった。


壱雨が初めて出てきてくれてから今までで、今日が

一番長く一緒にいてくれている。

触れることはできないけれど、すぐ横にいて見守っ

てくれている。

壱雨に髪を撫でられているような心地良さを感じな

がら、壱助は心から安心して、眠るのが惜しいと思

いながら、いつの間にか静かな寝息をたてていた。