大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

二次創作小説 曇天 

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曇天に笑う  の二次創作小説。

風魔の家族。転生パロ。壱助と六花の話。

 

☆☆☆消えない願い☆☆☆

 

裕福な家庭に生まれ、何不自由なく育った。

働かなくても大丈夫なくらいの家で、大学を卒業してお見合い、結婚というのもありだったれど、刺激がないのは性に合わなくて、自分で働いて稼ぎ、仕事にやり甲斐を感じてみたくて看護師の仕事を選んだ。

就職して二年目の夏、怪我で入院してきた男性と知り合った。

長身、鍛え抜いた筋肉質な体、端正な顔立ちで、すごく素敵な人がいると仕事仲間の間で話題になり、わざとらしく用事を作って彼を見に行く者までいたけれど、私が最初に彼を見た時に感じたのはそれだけではない不思議な感覚だった。

懐かしい。ずっと探していた。やっと会えた。何故か泣きたくなる。愛している・・・

いくら素敵な人でも、初対面の男性に対してこんな事を感じるのはおかしいと自分でも思う。

やがて同僚に羨ましがられながら彼と付き合いはじめ、結婚が決まるまでに一年はかからなかった。

彼は沢山の門下生をかかえる空手道場の経営者で、仕事に情熱を注いでいるところにも共感できた。

彼の家も裕福で、お互いの家族に祝福され、職場の同僚や友達にも祝福されて結婚。

一年後には可愛い双子の男の子に恵まれた。

目の中に入れても痛くないというのはこういう事を言うのかと、子供を授かってみて実感した。

全てが幸せだった。

あの事を知るまでは。

前世なんて知らない方が良かったかもしれない。

知ってしまったらこんなに辛いと分かっていたなら聞かなければ良かった。

今の幸せが、ある時突然に壊されてしまうのではないかと怯えるようになった。

前世そうだったように。

 

 

 

家族はまだ誰も帰ってきていない家のリビング。

久しぶりに早く仕事を終えて帰ってきた六花はまたその事を考えていた。

一人でいる時間があるといつも考えてしまう。

前世の事を知ったあの日から十三年が過ぎた今でも。

 


その日、昔の友人から久しぶりに連絡があった。

「生まれ変わりってあると思う?」

そんな話から始まった。

全然信じないでもないし、あるのかなとも思う。

半信半疑で少しは興味あるかなという程度だったけれど、この日は空いているかと誘われた日はたまたま空いていたので話に乗ってみた。

子供が生まれてからしばらくは仕事を休んでいて時間があったし、たまには親に子供を預けての外出もちょっと楽しみたかった。

退行催眠というものがあり、前世の事を見られるのだと言う。

普通はものすごく高額で滅多に払えるものではないけど、たまたま知り合いにそういう人がいて、友人は見てもらえる事になったから一緒にどうかと誘ってきた。

「興味あるけど何かちょっと怖くもあるしね。友達誘っていいか聞いたら一人だけならって」

「いいよ。何か面白そうだしその日空いてるから。前世ってどんなのだろうね。どっか外国のお姫様とかだったらいいなあ」

本気で信じているわけでもなかったので冗談半分でそんな事を言いながら軽い気持ちで行く事を決めた。

 


退行催眠を体験させてくれるという、その女性は優しく柔らかな雰囲気の四十代くらいの人だった。

話し方も穏やかで優しく、包み込まれるような安心感があったので緊張感はすぐに解れた。

椅子に腰掛けてお茶をいただき、リラックスした状態になるといよいよ退行催眠が始まる。

「小学生の頃を思い出してみてください」

まずそこから始まった。

友達と遊んだ事、学校の事、覚えている内容を語っていく。

次に小学校に上がる前のもっと幼い時の事、次に生まれて間もない時の事。

どのあたりからか、途中から眠ったのか、自分が何を答えたのか今はあまり思い出せない。

側で聞いていた友人が、私が全部はっきり答えていたと後で教えてくれた。

まだ母親の胎内にいる時の事。

その次に、もっと前は・・・?

田舎の景色だろうか。

とても美しい。

山並みがあり、川があり、空は晴れている。

気持ちはとても満たされている。

愛する人が近くにいる。

「あなたは今何歳くらいですか?」

質問の声が聞こえた。

「二十歳くらい」

自分が答えているのは意識できている。

「その場所はどこで、あなたは誰と一緒にいますか?」

この美しい景色はどこだろう。

とても懐かしい。

私の家はこの近くにあるのか。

今私は愛する人と一緒にいる。

自分の隣にいる男性の顔も姿もはっきりと見える。

その事を答えると、もう少し先の未来へ行ってみましょうと誘導される。

 


私は双子の男の子を出産した。

心から愛した人との間の初めての子供。

嬉しいはずなのに・・・とても悲しい。

私は涙を流している。

隣にいる夫も、辛そうな表情をしている。

双子は忌み子。

どちらかを殺さなければいけない。

それが風魔の掟。

殺せるはずがない。

どんな犠牲を払ってでも、どんな事をしても、この子達を守っていこう。

夫と私は二人でそう決めた。

「もう少し先へ行ってみましょう。今あなたは何歳くらいですか?」

どんどん鮮明に、記憶が蘇ってくる。

何とか見つかる事なく子供を育て、十年以上が過ぎた。

一人を洞窟に隠して、見つかった時は同胞を殺してでも子供を守ってきた。

そしてあの儀式。

夫を亡くした喪失感から立ち直れないうちに、ついにあの日、洞窟に隠していた息子が見つかってしまった。

「私はどうなっても構いません。どうか、この子だけは・・」

命に代えてでも子供を守りたかった。

全身を焼き尽くす炎の熱さが記憶に蘇る。

 


「大丈夫ですか?」

声をかけられて、意識がゆっくりと覚醒する。

びっしょりと汗をかいていた。

頭の芯が痺れ、ズキズキと痛んだ。

思い出した。全て。

 

 

 

 


気分を落ち着かせようと珈琲を淹れて一人で飲んでいると玄関のドアが開いた。

「ただいま」

「おかえりなさい。今日は珍しく早く帰れたのよ」

「母様、どうしたの?顔色が良くない」

リビングに入ってきた壱助が、心配そうに声をかけた。

「そう?大丈夫よ。何でもない。このところ仕事も忙しかったから、、、ちょっと疲れたのかもね」

この子はいつも優しい。

いつも本当に私を気遣ってくれる。

だから苦しい。

前世、私はこの子に優しくできなかった。

この子が悪いわけではないのに。

成人の儀というあんな決まり事のために夫は死ななければならなかった。

でもそれはこの子のせいではなかったのに。

私はあんな態度しか取れなかった。

「ごめんなさい。気がつかないうちに疲れてるのかもしれないわね。せっかく今日は早く帰れたし、ちょっとだけ休んだらすぐご飯にするから」

「いいよ。母様。ゆっくりしてて。まだ父様も壱雨も当分帰って来ないだろうしね。もし気分悪くなったらいつでも呼んで。部屋にいるから」

「ありがとう」

壱助はリビングを出て自分の部屋に行った。

壱雨は多分今日も学校の帰り、空手道場を経営する夫の永四郎のところに行っているはず。

双子でも性格は随分違うようで、壱雨は幼い頃から元気いっぱい。

悪戯好きで活発。

学校でもスポーツが好きで活動的。

道場でも門下生にまじって熱心に稽古に励んでいた。

成績は決して褒めたものではなかったけれど好きな道で生きるようになってくれればと、夫も自分もうるさい事は言わなかった。

「俺は強くなって母様と壱助を守る」

それが口癖だった。

 


兄の壱助は頭が良く、しっかり者。

成績はいつもトップで、スポーツ万能だった。

何をやっても大抵の事は平均以上にこなす。

それでもどこか淡々としていて、人と競争して勝ちたいという意識は薄いように見えた。

部活にも興味がなく、空手道場に通う事もなかった。

口数は多くなく、穏やかで優しい。

まだ子供っぽい壱雨と比べて精神年齢が高いというのか、年齢に似つかわしくないどこか大人びた雰囲気を持っていた。

 

 

 

壱助は自分の部屋に入ると鞄を下ろし、机の引き出しに入れてあるノートを出した。

物心ついた頃からここに書き綴ってきた、誰にも言えない秘密。

家族にすら話した事がない。

 


夢の中にいつも現れる里の風景。

知っていた人達の姿。

こみ上げる懐かしい思い。

どこかの神社の石の階段。

掃き掃除をしながら見た境内の風景。

数人で食卓を囲み、賑やかに笑った時間。

心が押しつぶされるような辛い思い。

どうしようもなく悲しい思い。

 


何度も訪れるこの感覚が何なのか最初はわからなかった。

今わからなくてもいつかわかるかもしれないと思い、忘れないようにノートに書きとめるようになった。

何か大切な事のような気がして。

やがてそれが前世の記憶なのだという事がわかってきた。

自分でもいろいろと本を読んで調べた。

魂は一度きりではなく、永遠に死なない。

人は何百回、何千回と輪廻転生を繰り返す。

前世、過去世でやり残した課題に再び挑み、魂を向上させるために。

古い肉体を離れ新しく生まれ変わると、過去世、前世の記憶というものは普通はなく、全て忘れているものらしい。

まれに子供の頃は前世、過去世の記憶を持つ者がいるけれど、大人になるにしたがってそれは忘れられていくらしい。

記憶そのものは忘れても、前世、過去世で学んだ事、経験した事は今世に影響を与えるらしい。

何度も転生を繰り返したり、人生で多くの事を学び経験した成熟した魂もあれば、まだその経験の少ない若い魂もある。

壱助は、自分が前世長い人生を生き抜いた事も思い出していた。

細かいところまで全て覚えているわけではないけれど、両親と双子の弟の事、風魔の里の事、愛する家族を全部失った事、風魔の長として生きた事、雲神社にいた十年。

そこで出会った人達の事も。

忘れる前にと書きとめていたので、断片的だった記憶は繋がり、より鮮明になっていった。

 


今世で出会う近しい人達というのはソウルメイト。

過去世、前世からいろんな形で何度も出会い、関わり、別れてきた人達のはず。

時には家族、時には恋人、時には友達として。

今の家族は、風魔の里での家族と同じだと壱助はわかっていて、その事は壱助にとって何より嬉しい事だった。

父様と母様と壱雨と、四人で幸せに暮らしたい。

前世ではそれは叶わず、悲しい別れが続いて自分だけが長い人生を生きた。

あの時の願いを今度こそ叶えたい。

前世を思い出すほど、辛い事も沢山あって、思い出さない方が、だんだん記憶が薄れていくに任せて忘れた方が楽かもしれないと思う事もあった。

でも、今度こそ願いを叶えたいという思いを強くしてそれを叶えるためには、覚えていた方がいいような気がした。

 


考え事をしながら部屋を片付けたりしている時、向かいにある父親の部屋の電話が鳴っているのが聞こえた。

自分の部屋を出て扉を閉め、父親の部屋の扉を開けて中に入る。

部屋の奥に置いてある電話台に近づく。

(FAXか、、、仕事の連絡事項かも。受け取って後で父様に渡してあげよう)

電話機の調子が悪いらしい。

途中で止まったか・・・

普段あまり使わないこういうのは得意じゃないしよくわからないと思いつつ、直そうと試みるも悪戦苦闘する。

 

 

 

夕食の準備ができたので、六花は壱助を呼びに二階に上がってきた。

勉強しながら机に突っ伏して眠っている事もあるので、それなら起こさないでおこうと、そっと上がってきてドアを開ける。

壱助の姿がない。

ドアを開けてすぐの場所にある机の上の、開きっぱなしになったノートが目に入った。

(中三の頃の勉強ってどんなだったかな。私達の頃と変わったかしら)

ちょっと好奇心が出て、ノートをのぞいてみる。

(勉強のノートじゃない。日記?)

それなら自分の子供のものとはいえ、勝手に見るなんて良くないと思う。

やめようと思いながら目に飛び込んできた文字。

 


・・・風魔の里

 


(まさか!?壱助は・・・)

 


見てはいけないと思った気持ちは消えてしまい、六花はノートを手に取って読み始めた。

退行催眠で自分が見た前世の記憶と変わらない。

風魔の里での暮らし。

忌まわしいあの儀式。

そして、自分の死んだ時の事。

読み出すと止まらなくなり、壱助が部屋に戻ってきた時、六花はノートを持ったままだった。

 

 

 

 

「母様、、、」

前世の記憶を書きとめたノート。

迂闊にも机の上に出しっぱなしだった。

(全部読まれてしまったのか・・・)

 


「ごめんね。壱助。勝手に見るような事してしまって」

「俺がノート置きっ放しにしてたから.・・・母様が悪いんじゃない」

「まさか壱助が前世の事を覚えているなんて思わなかったわ。だから言わなかったけど、私にも前世の記憶があるの」

「母様も?!」

今の今まで、前世の事を覚えているのは自分だけだと思っていた。

なので心底驚いたけれど、同時に安心感と嬉しいという気持ちが込み上げてくる。

前世では、母様との間に距離を感じていた。

小さい頃はそうではなかったけれど成長するに従い、普段から母様は自分より壱雨の方に注意を向けている気がして何度も寂し

いと思ってきた。

そしてあの儀式の後は、母様は決して自分を見てくれなかった。

最期のあの瞬間を除いては。

 


今、前世の記憶を持つのはおそらく母様と自分だけ。

壱雨は隠し事など出来る性格ではなく、何でも自分に話す方なので、もし前世の記憶などあれば言うに決まっている。

父様も、おそらく前世の記憶は全くないような気がする。

「秘密の共有だね。母様」

「壱助が前世の事を知ってて、こんな風に思っちゃいけないのかもしれないけど心強いわ」

今までで一番優しい笑顔を向けて、母様が答えてくれた。

「今度は絶対にみんなで幸せになりたい」

母様の目を真っ直ぐに見て、前世も今世もずっと願い続けてきた事を言葉にする。

「ありがとう。壱助。今度は絶対に四人で幸せになりましょう。この事は私達だけの秘密ね。もうすぐ父様と壱雨が帰ってくるから、いつも通り迎えないと・・・」

「わかった。このノートもしまっておくよ」

「見たのが永四郎さんや壱雨でなくて、前世を知ってる私で良かったわ。二人の時はまた話しましょう」

母様はもう一度優しく笑ってくれた。

ずっと欲しかった、自分に向けられる母の優しい視線。笑顔。

気持ちが満たされ、温かくなる。

嬉しさに目の奥がジワリと熱くなった。