大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

11 二次創作小説第11話

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山道での攻防 煉獄杏寿郎


前を走っていたワゴン車が止まった。

車から降りた者が二人・・・もう一人。

追跡しているこっちには目もくれず、山の斜面を上がって行く。

さっき逃げていた者達を追っていったのか。

おそらく、追われている者の中には弟の千寿郎もいる。

 


止まっている車の上からは、こちらを狙って撃ってくる。

次々と放たれた数本の矢のうち一本が命中し、フロントガラスを砕いた。

「ぎゃあああああ!!!!死ぬーっ!!!」

「大丈夫だ。頭を下げてろ!」

宇髄が後部座席の二人に声をかけた。

向こうは止まった事で、走りながらよりも狙いが定まりやすくなっている。

このまま突っ込んでいけば、どうなる?

もし俺が撃たれて致命傷を負えば・・・後は宇髄が何とかしてくれるか。

「煉獄。車止めろ」

「何故だ?」

「いいから」

俺は、スピードを落として車を止めた。

 


相手は容赦なく撃ってくる。

こちらも止まった事でもっと狙いやすくなったのか、頭を下げてうずくまっている俺達の頭上を矢が掠め、座席の背もたれに突き刺さった。

「ぎゃあああああああ!!」

「あっちだって無限に矢があるわけじゃねぇ。耐えろ!」

宇髄が言って、そのあと俺の方を見た。

「煉獄。お前またろくでもない事考えてたでしょ。このまま突っ込んでいって自分が撃たれても、残った俺らで後はどうにかなるとか。そういう自己犠牲無しな。前に話した事忘れた?」

「たしかに今一瞬そう思ったが。何故分かった?」

肉体を持たない幽霊とでも話してしまうような宇髄は、人の思考を読み取る力まであるのだろうか。

「俺もカンは鋭い方だけど、お前いちいち顔に出やすいしすぐわかるわ」

「しかしこの状況では他の方法が・・・」

話している間にも矢が飛んできて頭の上を掠めていく。

 


「俺の譜面では全員助かる事になってんの。任せな。竈門。お前さっきから俺と同じ方見てない?もしかして考えてる事一緒?」

「俺は斜面をここから上る事を考えてました。煉獄先生の車を捨てることになりますけど。命の方が大事ですよね」

「やっぱ一緒だわ。お前なかなか優秀だな」

「車の事はかまわないが。ここから徒歩で上るということか?」

「車の中に何人いるのか知らねぇけど、撃ってきてる奴は無視して上へ駆け上がる。ここで足止め食らって動けないより、山に入って救助に向かう方が早いでしょ」

なるほど。千寿郎達も上へ逃げて、何人かがそれを追って行った。

捕まっていないといいが・・・確かにここにいるより、山に入って助けに行く方が早い。

「そうだな。宇髄。車を捨てて上に駆け上がろう」

「宇髄先生。四人一斉に行きますか?」

「えーっ!!??めちゃくちゃ撃ってきてるんですけどぉー!!車から出たら格好の的でしょ!!」

 


「俺もそれくらい考えてるぜ。だからこれを使う。今いい具合にこっちが風上だ」

宇髄が、何やらピンポン玉くらいの大きさの丸い物とライターを取り出した。

「煙幕で向こうから車が見えねぇうちに、移動するぞ!」

火をつけて車の前にそれを投げると、モウモウと煙が出始めて車体を覆った。

車のドアを開け、姿勢を低くして移動。道の無い山の斜面を駆け上がる。

相変わらず向こうから撃ってきているけれど、煙のせいで狙いは定まっていない。

 


煙が消えた時には、俺達はかなり上の方まで移動していた。

敵は、俺達が車から出た事も気がついていないかもしれない。

「方向としてはあっちだな。探そう」

あのワゴン車が止まっているよりもう少し先。

千寿郎達は、皆でどこかに隠れているのか。

俺達が行くまで、とにかく逃げ切ってくれ。

祈るような気持ちで山道を走る。

 

 


子供達を守る 竈門禰豆子

 

「見つけたぞ!」

目の前に立った男が、仲間に向かって叫んだ。

 


バラバラとこちらに向かってくる足音がする。

何人居る?

相手が何人居ようと、子供達には指一本触れさせない。

私は、子供達を背中の後ろに隠して立ち塞がった。

 


最初に私達を見つけた男が、一歩近づいてきた。

私は、相手の目を真っ直ぐに見た。

怯んだら負けだ。

「ガキが六人。これで全部か?あと二人どうした?」

「・・・・。」

「死にたくないんならさっさと吐いた方が身のためだぞ」

先頭の男が私の髪の毛を強く掴んだ。

「知らない。私達を置いて逃げたから」

「本当か?嘘ついてやがったら・・・」

男が言い終わらないうちに、木の陰から飛んできた石が額に命中した。

額が割れて血が吹き出し、完全に不意打ちの攻撃に、男が一瞬怯んだ。

そこにもう一つ石が飛んできて今度は膝に当たり、男が体勢を崩した。

その瞬間、隠れていた玄弥が飛び出してきて、太い木の棒で男の側頭部を力一杯打ち抜いた。

この一撃で、最初の男は地面に倒れた。

 


けれどすぐ後から、もう二人来た。

さっき隠れて石を投げていた千寿郎も前に出て、木の棒を構える。

「なめたマネしやがってガキどもが」

「こいつらは殺していいのか?」

「たしか人質になるやつだろ。死なない程度に痛めつけるか」

男二人が持っているのは、サバイバルナイフのような刃物。

一歩間合いを詰められたら刺される。

 


絶対絶命だと思った時、ナイフを持つ男の後ろに人影が見えた。

男が気配を感じて振り向くと同時に、重い鉄パイプの一撃が脇腹を抉った。

痛みに耐えきれず男が体勢を崩したところで、後頭部にもう一発鉄パイプが振り下ろされた。

一瞬の出来事。

最初、私達は何が起きたか分からなかった。

子供達を守り、出来れば自分達も助かるために三人で示し合わせて頑張ったけれど・・・相手が複数現れた時点で、自分が助かるのはもう無理かと諦めかけた。

そこに突然味方が現れた。

見覚えのある黄色い髪。

誰?もしかして同じ学校の・・・

 


「禰豆子ちゃんは俺が守る」

 


聞き覚えのある声。

顔を見れば、お兄ちゃんとよく一緒に居る人だから見覚えもある。

善逸さん。

パンを買いに来てくれたことも何度もあったかな。

 


でも今、纏うオーラが全然違う。

不意に心臓がドクンと跳ねた。

何この感覚???

 

 

 

敵側からしてみれば、突然の背後からの攻撃で、隣にいた男が倒れたわけだ。

その事に驚いて一瞬固まっていたもう一人の男は、ハッとして再びナイフを握り直した。

その切先を、自分達を邪魔しにきた善逸さんに向ける。

 


危ない。さっきは後ろからで相手が油断していたけれど今は・・・

 


「禰豆子!大丈夫か?!」

 


お兄ちゃん!!

 


背後から叫ぶ相手の方に、ナイフを持った男の意識が一瞬逸れた。

 


見た事もないような凄い形相で突進してくるお兄ちゃん。

 


男が意識を逸らした一瞬の隙を逃さず、ナイフを持った手に鉄パイプを振り下ろす善逸さん。

お兄ちゃんが、正面から突きを入れる。

二人同時の攻撃に、男の体が崩れ落ちる。

更にもう一度、お兄ちゃんが鉄パイプを振り下ろして、男は昏倒した。

 


「禰豆子。偉いな。子供達を守ったんだな」

いつもの優しい表情に戻ったお兄ちゃんが、頭を撫でてくれる。

私ももう子供じゃないのに。でもちょっと嬉しい。

「怪我したのか?」

「大した事ない。平気。さっきはもうダメかと思ったけど助けてくれてありがとう。善逸さんも・・・」

お礼を言おうとして目を向けると、善逸さんは寝ていた。

 


「千寿郎君も玄弥さんもありがとう。子供達も無事で良かった」

「敵はこれだけなのか?」

玄弥さんが、お兄ちゃんに聞いた。

「車の中にあと何人居るかは分からない。人間かアンドロイドか不明だけど矢を撃ってきていた奴と、運転していた奴が居るから最低あと二人はいるはずだ。煉獄先生と宇髄先生も来てくれてるから大丈夫だと思うけど」

 


合流地点へ 宇髄天元

 

追ってきた相手を、俺と煉獄で迎え討った。

相手は三人。

数メートル離れた地点から催涙スプレーを使い、それで悲鳴を上げて倒れたのは一人だけだった。

向かってくる二人の男は戦闘用アンドロイド。

刃渡りの長い刃物を振りかざして向かってくる。

左右から向かってくる敵に対して、俺は近い方にだけ集中した。

こういう状況の時、煉獄との間には暗黙の了解がある。

敵一人にだけ集中すれば、もう一人の敵は相棒が倒してくれる。

 


俺は、両手に持った二本の鉄パイプを使った。

突くと見せかけて相手の攻撃を受け流し、鉄パイプの持ち手の方を相手の鎖骨めがけて打ち込んだ。

人間なら急所で骨が砕けるはずだが、ただ鉄と鉄のぶつかる音が響く。

相手は痛みも感じなければ、破壊されるまで戦い続ける機械だ。

接近戦に持ち込んで、鉄パイプで相手の刃物を受け止める。

単純な腕力だけの勝負なら、おそらく俺は負けない。

そのまま押し切って突き飛ばすと、急な山の斜面を真っ逆さまに落ちていった。

あの落ち方をしたら、人間なら首の骨を折って終わりだと思うけれど、あいつはまだ壊れていないかもしれない。

復活して這い上がってくる可能性もあるから、しばらく警戒しないといけない。

 


振り返ると、煉獄が相手の持っている刃物を叩き落とし、鳩尾に突きを入れていた。

鉄のぶつかる音が響き、相手の体が傾いた。

間髪入れずに頭を狙って鉄パイプを振り下ろす。

二度、三度繰り返すうちに、表面の人工皮膚が裂けて機械の中身が飛び出した。

あれなら完全に破壊しただろうと思う。

俺は煉獄の方に歩み寄った。

「そっちはどうだ?宇髄」

「下に突き落としたし、もしかしたらまだ生きてっかも」

「警戒しながら行けば何とかなるだろう」

 


もう一歩近づいた煉獄が、突然俺の背後を見た。

「伏せろ!宇髄!」

煉獄に突き飛ばされて地面に伏せる。

飛んで来た矢が、煉獄の背後の木に突き刺さった。

「クソ!もう一人いやがったか」

すぐ起き上がって、近くの木の後ろに身を隠す。

相手がまた撃ってきて、俺達の隠れている木の幹に矢が突き刺さった。

 


「煉獄!お前さっき・・・」

「大丈夫だ。気にするな。大事無い」

煉獄の右の肩が、傷口から流れた鮮血で真っ赤に染まっている。

さっきのアンドロイドとの戦いの後は、怪我はしていなかった。

その後で俺を庇った時に、矢が掠ったに違いない。

 


居るのは今撃ってきている一人だけか?

他にも居るのか?

どっちにしろこのままでは状況が不利だ。

俺達には飛び道具は無い。

「煉獄。お前ここに居て。煙幕を使って相手に接近する」

「俺も行く。これくらいは怪我のうちに入らない」

 


煉獄が言い出したら止めても無駄だ。

無言で頷き合い、煙が上がる中左右に分かれて走る。

左の太腿に鋭い痛みが走った。

矢が掠ったか・・・

構わず走って相手の方に接近する。

 


煙が消え始めた時俺の目は、矢を撃っている敵の姿を捉えた。

撃つために視線を前に向けている相手は、横から接近する俺にまだ気が付いていない。

足音を立てずに近づくのも俺の特技だ。

 


相手の膝を狙って鉄パイプを振り抜いた。

金属同士のぶつかる音。

こいつも戦闘用アンドロイドか。

体勢を崩した敵の後頭部めがけて、鉄パイプの一撃をくれてやる。

人間ではないと分かれば容赦は要らない。

 


敵を打ち倒して振り返ると、少し離れた場所で煉獄が戦っているのが見えた。

さっきから撃ってきていたのは一人ではなかったらしい。

鉄同士のぶつかる音が何度も響く。

俺の戦った敵と同じ。相手は人間ではない。

煉獄が斜め上から振り下ろした一撃が、敵の側頭部に入った。

体勢を崩して倒れていく敵に、煉獄は攻撃の手を緩めない。

完全に破壊するまで打ちのめした。

激しく動いたせいで余計に傷が開いたのか、肩口からの出血が酷い。

「煉獄!大丈夫か?!」

走り寄る俺に、煉獄が振り返って柔らかく笑った。

 


「おそらくこれで全部だな」

「そぉね。さっき下に落ちた奴がまた復活して来ないとも限らないけど」

「宇髄。君も怪我をしているのか」

「掠っただけだ。大した傷じゃない。お前こそ大丈夫か?」

「これくらい何ともない。戦いになると分かっていればこんな格好では来なかったがな!」

煉獄はそう言って笑う。

でもそれはたしかに。煉獄の家に皆で泊まっている時に今の事態になったから、Tシャツやタンクトップに短パンという、体を保護するには最悪の格好のままだ。

「竈門少年達は無事だろうか」

「連絡来てねぇかな。見てみるわ」

 


「連れ去られた奴は全員無事だ!あいつらなかなかやるな」

「そうか!良かった!敵には遭遇せずに済んだのだな」

「遭遇したけど倒したみたいだぜ。俺らが思ってるほど子供でも弱くもないって事でしょ」

「そうだな。竈門少年も黄色い少年も、前世は鬼殺隊士だからな!」

「あっちに居たのは全員人間だったみたいね。逃げた奴を連れ戻すとかは人間じゃないと無理で、戦闘用アンドロイドがやれるのは戦いだけなのかも」

 


煉獄は弟と感動の再会をして、全員で合流し山を降りた。

玄弥が、倒した敵の服のポケットから車のキーを取ってきていた。

煉獄の車一台では無理だけれど、あのワゴン車を奪い取れば、ここに居る全員が乗れる。

車の所まで戻ってみると、ワゴン車は無人だった。

人間も戦闘用アンドロイドも全員総出で、逃げた者達の追跡に向かったらしい。

それで何とか出来ると思っていたなら、俺達を甘く見すぎている。

「俺こっち運転するわ」

「ありがとう。宇髄。子供達を頼む」

「あの病院の地下の方も心配だ。俺達は理事長と合流する」

「分かった。俺もすぐ後から行く」

煉獄の車の方に乗る竈門、我妻、玄弥の三人は、先にそっちに向けて歩きかけていた。

「え?あれ何?!」

「敵が残ってたのか?!」

煉獄の車の近くに人の姿を見つけ、竈門は走り出そうとする。

「待て!近づくな!止まれ!」

俺は、嫌な予感がして引き止めた。

 


次の瞬間、耳をつんざくような爆発音と共に、車が大破した。

炎が吹き上がり、車は燃え続けている。

「ぎゃああああああ!!!!死ぬとこだったああああ!!!!」

「宇髄さん。ありがとうございます。近づいていたら俺も危なかった」

「こっちの車は大丈夫なんだろうな」

玄弥が車の周囲を調べ始めた。千寿郎もそれに倣う。

「こっちは大丈夫だ。時限爆弾とかじゃねぇから。あれは多分、さっき戦った時俺が突き落としたアンドロイドだ。車と一緒に自爆するように遠隔操作されたんだろ」

「仕方ない。全員でこっちに乗るしかないな。宇髄が気が付いてくれたから誰も怪我をしなくて良かった。ありがとう」

 


「カナエ先生に連絡を取ったら、こっちに向かってくれるそうです。途中で落ち合って子供達を預けましょう。禰豆子も行って傷の手当てを受けておいで」

機転がきく竈門が、すぐに気がついて連絡を取ってくれていた。

これから俺達と一緒に戦いに向かう決意の表情、けれどそのあと妹に向けた表情は、優しい兄の顔だ。

 


移動する間は子供達から、病院の地下の様子も聞けるかもしれない。

 

 

 

地下の施設 冨岡義勇

 

全員で突入した時は、敵が押し寄せてきて激しい戦闘になるものと思っていた。

おそらく俺以外も、全員がそのつもりだったと思う。

侵入者を阻む、あんな仕掛けを作っているくらいだから、中にはもっと大きな仕掛けがあるか、人間かアンドロイドか知らないが多数の戦闘要員が居るに違いないと思っていた。

けれどその予想は大きく外れた。

入ってこようとする者に対しては、外の見張りとあの仕掛けだけで十分足りると思っていたのかもしれない。

中には戦闘要員はほとんど居ないし、入り口の通路のような仕掛けもなかった。

 


中に居た十人ほどの者達は、俺達が突入すると同時に向こうの壁際まで逃げ去った。

人間なのかアンドロイドなのか、ここから見ただけでは判断がつかない。

その壁には扉があって、扉の先はガラス張りになっている一角がある。

けれどどこかへの抜け道があるわけでもない。

あんな出口の無い狭い場所に逃げ込んだところで、捕まるのを待つようなものだ。

 


この部屋の中央には鉄製の檻があって、子供達が十人ほど入れられていた。五歳にも満たない幼い子供達ばかりだ。

出してほしいと泣き喚いている子もいれば、諦めたように床に蹲っている子もいる。

「危ないからそっちに避けてろォ」

不死川がそう言って、子供達を檻の扉から離れさせた。

鉄パイプで力任せに鍵を破壊する。

子供が出られないようにと付けられていた鍵は、大して頑丈な物でもなくすぐに壊れた。

 


「もう大丈夫だからね。怖くないから出てきてね」

甘露寺が中に入って子供達を連れ出した。

「こっちからは簡単に仕掛けを止められる」

俺は、入り口の壁際を見に行ってスイッチを見つけた。

「これは・・・」

壁際の、もう一つのスイッチを押すと、壁だと思っていた所がドア1枚分開いた。隙間から中が見える。

「どうした?」

近くにいた伊黒も、こちらを見て開いた場所を覗き込んだ。

甘露寺!見るな!子供達を向こうへ連れて行け」

「どうしたの?」

 


俺も察して伊黒の隣に行き、開いた場所に立ち塞がる。

手術台の上に横たわっている人間の体。

頭部を切開して脳を取り出されていて、もう生きてはいない。

座った姿勢で置かれている、同じような人間の体。

数体積み上げられた死体。

バラバラに切り分けられた人間の手足や胴体、頭部。

明らかに子供の物と、分かる物も多い。

焼却炉と思われる設備。

棚に並んだ様々な薬品と、置かれている得体の知れない機械の数々。

この場所に、生きている人間の気配は無い。

助けられる人間は居ない。

伊黒が証拠を写真に収めるのを確認して、俺はもう一度ボタンを押した。

開いていた場所が閉じて、元通り壁になる。

 


「何やってやがる!?お前ら正気か!?」

部屋の奥に向かって不死川が叫んだ。

ここに居た連中が逃げ込んだ扉の中だ。

炎が上がり、中に居た人間の体が燃え上がっている。

瞬く間に炎が勢いを増し、煙で中は見えなくなった。

「灯油をかぶって火をつけやがった!」

不死川が扉やガラスを鉄パイプで叩いているが壊れない。

耐熱ガラスか。さっきの檻と違ってこちらの扉は頑丈で、開かないらしい。

それでも隙間はあるようで、煙がこっちまで流れてきた。

「燃え広がれば全員出られなくなる。行くしかない!」

俺は夢中で叫んでいた。

焼身自殺を図ったのがアンドロイドか人間か分からなくても。

子供達も居る。

上で普通に働いている人達も。

生きている人間をとにかく助けなければ。

 


子供達は、煙を吸い込んで咳き込み始めた。

「大丈夫だからね。私につかまって。皆んな手伝って!」

甘露寺が子供を一人背負い、両腕に一人ずつ抱きかかえた。

俺と不死川も同じように三人ずつ抱えて、伊黒が最後の一人を背負った。

扉から廊下へ出て、降りてきた道を引き返す。

あの仕掛けは止まっているので出るのは容易いが、煙が廊下まで広がりはじめた。

一人ずつしか通れない狭い階段は、子供を三人抱えていては通れない。

子供を一人背負って甘露寺が先に上がり、皆で誘導して子供達を全員上がらせた。

下にいる間に不死川が、外に電話している。

見張りに残った理事長と悲鳴嶼さんに、上にいる人達に火事を知らせてくれという内容だった。

子供達の後で俺達三人も上がる。

「火事だ!」と叫んでいる人の声が聞こえ、病院の中から次々と人が走り出てくるのが見えた。

誰かが119番通報しただろうし、おそらくすぐに消防車が来る。

 


「離脱しよう。ここに居ると面倒だから」

理事長が言った。

車二台に分かれても、一台の車に大人三人ずつと子供五人ずつ。

本当は違反だけれど、今の状況では言っていられない。

火事の騒ぎに紛れて、俺達は全員この場を離れた。