大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

17 二次創作小説最終話 第17話【そして平和な世界へ】

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駅のホームで起きた事件 竈門炭治郎

 


祭りに向かう人も今日は多いのか、途中から急に電車が混んできた。

浴衣姿も見られるし、カップルも多い。

俺達は、ボックス席二つに分かれて座っている。

人数が多い方と話しも盛り上がるし、やっぱり楽しい。

祭りに行って屋台を巡って花火を見る。今から始まる楽しみに向けて気持ちは浮き立っている。

 


俺と伊之助の向かいに、禰豆子と善逸。

二人はあの事件以来特に距離が近くなったようで、善逸が禰豆子のことを好いているのは知っているから、俺も応援している。

祭りを機に付き合いたいと、善逸は密かに決心しているらしい。

 


俺はまだ、カナヲの隣に座るのはちょっと照れ臭かった。

意識するとかえって緊張して何を話していいか分からなくなる。

その点善逸が羨ましい。

俺もこの祭りを機に、一歩進めたらいいなあと思う。

 


隣のボックス席には、錆兎と真菰、向かいにカナヲと時透くん。

千寿郎くんと玄弥さんは、兄さん達が来たら合流したいからという事で、もう少し後の電車に乗ると言って一旦別れた。

後で祭りの会場で、待ち合わせようということになった。

 


煉獄先生は、あの時祭りに行くとは言っていなかったけれど・・・

先生達がやっぱり行く事になったということは、遊びではないだろうし何かやはり気になることがあるのかもしれない。

俺達も、遊びに行くのはいいけど警戒を怠ってはいけないと思う。

 


「次だ。降りよう」

俺は、隣のボックスにも声をかけた。

次の駅で一旦下車、向かいのホームに来る電車に乗り換えれば、あとは祭りの会場まで直通のはずだ。

 


電車が止まり、扉が開いた。

同じボックスに居た俺達四人が先に降りて後ろを振り返ると、あと四人も席を立って出口に向かってきていた。

電車を降りて数メートル歩いた所で、前方でざわめきが起きた。

続いて悲鳴が上がる。

「痛い!!」

「誰?!」

「やめて!!」

人混みでもみくちゃになりながら、俺は声のする方を見た。

 


駅のホーム内、前方で何か起きたらしい。

確かめに行きたくても人が多すぎて、なかなか前に進めない。

俺達と違うドアから出たカナヲ達の方が、先に前に行けたようだ。

四人の姿を人混みの中に確認した。

 


ラインの通知が来てスマホを見る。

時透くんからだった。

「人が何人か倒れてる。咳き込んでる人が多い。毒かもしれない」

催涙スプレーの類か?

それよりもっと毒性の強い物なのか?

 


あいつだ!追うぞ!」

錆兎の声が聞こえた。

時透くんを先頭に、錆兎、真菰、カナヲ。

俺達より前に居た四人は、一斉に駆け出した。

この騒ぎを起こしてる犯人を見つけたのか?!

「ついて来い!俺達も追うぞ!」

伊之助が叫ぶ。

「すみません!通してください!」

俺は叫びながら人混みをかき分け、必死で進んだ。

 


「お兄ちゃん!!待って!!」

後ろから禰豆の声が聞こえた。 

 


続いて同じ方向から、誰かの悲鳴が上がった。

「線路に人が落ちたぞ!」

何?!

緊急停車ボタンを押せとか誰か叫んでいる。

俺は・・・どっちへ行く?

 


「伊之助!来てくれ!頼む!」

俺は、禰豆子の居る方へ急いで戻った。

伊之助も戻ってくれた。

 


俺の目の前で、禰豆と善逸が線路に飛び降りた。

考えている余裕は無い。

俺は伊之助とほとんど同時に、その後からすぐ飛び降りた。

 


「人が突き落とされた」と、ホームで誰かが叫んでいる。

 


線路の上に倒れているのは二人。

若い女性と、サラリーマンらしき男性だった。

女性は頭を打ったのか、ぐったりして動かない。

「大丈夫ですか!?」

顔を覗き込んで声をかけたが反応が無い。

男性は意識ははっきりしているが、落ちた時に両足を痛めた様子で起き上がれないらしい。

 


「痛みますか?頑張って!」

四人がかりで何とか体を持ち上げて、ホームの上に上げられないか。

細身の女性でも、意識のない人間というのは恐ろしく重い。

男性の方は大柄で体格が良く、体重もかなりある。

善逸と禰豆子が女性の方、俺と伊之助が男性の方の体を持ち上げようと頑張った。

とてもホームの上まで持ち上げられそうにない。俺達では難しいのか。

 


緊急停車ボタンが間に合っていなければ、このままでは電車が来る。

「無理だよ炭治郎!全員轢かれて死ぬ!それより線路の間に・・・」

善逸が叫んだ。

そうか。一か八かだがこの場合、線路の間に伏せて電車をやり過ごすか。

 


そう思った時、誰かが線路に飛び降りてきた。

 


「そこじゃない!こっちだ!」

叫びながらこっちに走ってくる少年は、俺達と同じ制服。

クラスは違うけど見た事はある。たしか同じ高等部の・・・

 


「線路の間は危ない!そこから出ろ!こっちに来い!」

少年が指さしたのは、ホームの下の空間。

決して広くはないけれど、こういう時のための退避場所?

あそこなら大丈夫かもしれない。

「退いてろ!俺がやる」

 


追いついてきた少年は男性に肩を貸して、その体をぐいと持ち上げた。

決して大柄ではなく、細身に見えるのに俺達よりずいぶん力があるらしい。 

そのまま、ホームの下の空間まで行って、男性の体を出来る限り奥に押し込んだ。

俺と伊之助は、女性の方を二人で持ち上げてホームの下へ避難する。

 


電車が近づいてきた。

「上がっている暇は無い!ここでやり過ごせ!」

俺達は全員、出来る限り奥へ体を寄せてへばりついた。

人数が多いのでギュウギュウ詰めだ。

善逸は、禰豆子の体を自分の腕で庇うようにして壁に身を寄せている。

俺と伊之助は、意識の無い女性の体を支えた。

 


ものすごい轟音と風圧。目の前数センチの所を電車が通った。

恐怖に体が震える。

「緊急停車ボタンを誰か押したんだろう。急ブレーキはかけたらしいな。減速していたようだが、これでも轢かれたらタダでは済まない」

助けてくれた少年が言った。

本当にその通りだ。

冷たい汗が背中を流れ、足がガクガクしてまだ動けない。

 


駅員さんだろうか。ホームの上から「大丈夫ですか?!」と叫んでいる。

「全員無事です!!」

多少声が震えていたかもしれないけれど、出来るだけ大声ではっきり答えた。

「電車をゆっくり移動させます。そのまま動かないでください!」

「わかりました!」

急ブレーキをかけて緊急停車しても、すぐには止まれないらしい。

減速しつつも、俺達が居る位置より少しだけ進んで停車していたようだ。

 


「ありがとうございます。本当に助かりました」

線路に落ちた男性は、少年に、それから俺達に、何度も礼を言った。

「突き落とされたのか?」

少年が聞いた。

「そうです。ホームの端近くをスマホを見ながら歩いていて、不注意でした。誰かに強く背中を押されました」

「やっぱりただの事故じゃなかったのか。やったのは奴らの関係者か」

伊之助が言った事と、俺も同じ考えだった。

 


「多分誰か救急車を呼んでくれただろう。もう大丈夫だ。そっちはどうだ?」

少年が、女性の方を見て声をかけた。

「意識は戻りませんけど、息してますし脈はちゃんとあります」

「あ・・・気がついたかも。大丈夫ですか?」

善逸が声をかけると、女性がゆっくり目を開いた。

「・・・えっ・・何?・・私・・」

何が起きたかよく分かっていない様子だ。

「痛っ・・」

「頭を打ってますから、無理に起きないでください。もうすぐ救急車が来ます」

禰豆子が優しく声をかけている。

 


救急車を待つ間、善逸と禰豆子が怪我人二人を見てくれているようで安心出来る。

俺は助けてくれた少年の方を見た。

「本当にありがとうございました。線路の間に寝てたら危なかったですね」

「気にするな」

 


「お前同じ学校の奴か?」

伊之助が少年に聞いた。

色白で、長い睫毛が印象的な美形。

童顔には見えるけれど相手は年上かもしれない。

「伊之助。タメ口は失礼だよ。先輩だよ多分」

「俺は狛治。三年だ」

「やっぱり先輩でしたね。ありがとうございました。俺は一年の竈門炭治郎です。同じ学年の伊之助と善逸。禰豆子は俺の妹で中等部です」

 


「お前らがやっている事を俺は知っている。今日は祭りどころではないかもしれないぞ」

「俺達が祭りに行くって・・・」

「杏寿郎から聞いた」

杏寿郎??誰?・・・もしかして煉獄先生の事?知り合いなのか?

「お前も前世の記憶はあるんだろうが俺の事は覚えていないらしいな。俺は人間の時と鬼の時の記憶を両方持っている。猗窩座だと言えば分かるか?」

猗窩座?!前世で戦った相手だ。忘れもしない。

 


今目の前に居る人物は印象が違いすぎて全くわからなかった。

伊之助も善逸も驚きすぎて、めずらしく絶句している。

人間の時これほど美形だったとは知らなかった。

しかも、一見童顔で細身に見える外見に似合わず、俺たちよりずっと力があるのはさっき分かった。

 


「今は・・・俺達を助けてくれるんですか?」

「奴らのやろうとしている事には、俺も賛成しかねるからな」

この人は今は人間の時の記憶も持っているなら、こっちが本来なのかもしれない。

 


「この事が起きる前に、ホームで何か・・・毒かもしれないですが、撒いた奴が居て、俺達の友達が四人で追いかけて行きました」

「毒を撒いただと?」

今までポーカーフェイスに見えた表情が変わった。毒という言葉に、怒りを露わにする。

「この人達を突き落とした奴の方は、姿も見ていません。人が落ちたと誰かが叫んでいて、すぐホームに飛び降りたので」

 


「心配するな。そっちはおそらく今頃、杏寿郎達が追っている」

「千寿郎くんと玄弥さんが、兄さん達が来ると言ってました。煉獄先生達は、今日ここで何か起きると見ていたんですね。俺達も・・・」

「行くのもいいが、この辺りでもまだ何か起きるかもしれない」

「来やがったら俺様が成敗してやる」

「伊之助。武器はまずいよ」

傘に見せかけて持ち歩いている武器に手をかけた伊之助を見て、俺は小声で注意した。

こっちが危険人物と見なされたら、後が動きにくい。

 


決戦の時 宇髄天元

 


「気配が近い。この近くに居る」

急に立ち止まった素山が言った。

なんの変哲もない駅のホームに見える。

 


俺達は、この駅の近くまでは車で来た。

今居るこの場所は、祭りの会場に向かうとすれば乗り換えの駅になる。

俺達より少しだけ早く、電車で向かったと思われる竈門達生徒数人は、もうこの辺りに来ているか、ちょうど到着する頃だ。

俺は、素山という生徒と、煉獄、不死川、冨岡と一緒に駅のホームまで入ってきている。

 


ここに来る途中、車の中で素山から話しを聞いた。

素山は、人間の時の記憶と鬼の時の記憶。その両方を持っているという。

俺もこの生徒の顔は知っているが、上弦の鬼と重ねて考えた事は当然無かった。

前世鬼だった者が人間として転生してきているのは、鬼舞辻無惨や黒死牟もそうだという事を考えればあり得る話しだ。

 


「鬼舞辻本人がここに居るわけではないかもしれない。けれどここで何か起こそうとしているのは間違いない」

「何でそこまではっきり分かるの?」

「誰でもいい。ここに居る誰かを殺せと、俺の頭の中に指令を送ってきているからだ」

「この辺りに居る無惨と繋がりのある者達にも、前世強い鬼だった他の者達にも、同じ指令が送られているという事だな?」

今度は煉獄が聞いた。

「ああ。そういうことだ」

 


「この辺りっつったって広すぎるぜ。祭りだから尚更か。人も多すぎるし」

「全員分かれて別々の場所を警戒してはどうだろうか?」

「そうだな。電車の中という可能性もある。俺は向こうを見てくる」

そう言って冨岡が歩き出した時、少し離れた場所でざわめき起きた。

続いて誰かの悲鳴が上がる。

痛いと叫ぶ声。咳き込むような声も聞こえる。

 


「奴らの仕業か?」 

後ろに居る素山の方を振り返って聞いた。

「おそらくそうだ」

全員一斉に、そっちに向かって走った。

走ったと言っても周りに人が多すぎて、速くは進めない。

何か起きたらしい場所から離れようと、こっちに向かって逃げてくる人達の波に逆に押されてしまう。

 


人の波をかき分けて必死に進もうとしている時、反対側からまた悲鳴が上がった。

「人が落ちたぞ!」

「非常停車ボタンを押せ!」

誰かが叫んでいる。

 


「俺はこっちに行く!」

声のした方に一番近かった素山が叫んで、走り出した。

人か落ちたのなら助けに行かなければ。

非常停車ボタンを押しても間に合わないこともある。

 


「そいつらだ!逃げたぞ!」

また誰かが叫んでいる。

人を線路に落とした方の犯人か?!

数メートル向こうに、走って逃げていく男の姿が見えた。

すぐ後にもう一人。

全速力で走る男二人に突き飛ばされて、倒れた人達が痛いと叫んでいる。

そいつらを追いながら、頭の中で考える。

落とされた人を助ける方に、素山が行ってくれた。

任せるか。

こっちはこっちで捕まえねぇと、これ以上また何やらかすかわからねぇ。

 


最初の騒ぎでホームに居た人達が逃げていき、人が減って少しは走りやすくなった。

男の一人はホームの端まで行くと、そこから階段を駆け上がっていく。

冨岡と不死川が追っている。

もう一人の男が、線路に飛び降りた。

そのまま向こうまで走って渡っていく。

今なら電車は来ていない。

男を追って線路に飛び降りた煉獄に、俺も続く。

反対側のホームに自力でよじ登った男は、振り向きざまに俺達に向けて。催涙スプレーを噴射した。

これを警戒する訓練を重ねていた俺達は、鞄を盾にして直撃を避けた。

こっちも走りながら、相手に向けて催涙スプレーを噴射したが、相手はすでに背中を向けていてそのまま逃げていく。

 


スプレーがかかった鞄はすぐにホーム下の空間に向けて放り投げ、着ていた夏物のジャケットも走りながら脱いで同じ場所に投げ捨てる。

もろに顔に浴びはしなかったものの、髪や服に僅かに飛んだ液体だけで喉がヒリヒリして、目が痛くなり涙が溢れた。

「宇髄。大丈夫か?!」

「大丈夫だ。走れる」

痛みに耐えながらホームによじ登り、男が逃げた方向に走る。

煉獄も、走りながら咳き込んで涙を流していた。

「お前も大丈夫か!?」

「平気だ!今追いつかないと!見失ってしまう!」

 


男は、線路に沿って走って逃げていく。

途中催涙スプレーを噴射しまくっているのが、それを浴びた人達が叫び声を上げて蹲っている。痛いと泣き叫ぶ声が聞こえる。

俺の目はまだ、男の背中を捉えている。

男が何か投げ捨てた。空になった催涙スプレーか。

 


吸い込まないように、出来るだけ息を止めて走る。

 


ホームの端に男の姿が見えた。男の手元で何かが光った。

今持っているのは、おそらく刃渡りの長い刃物。

近くには、他には人は居ない。ここなら戦える。

 


先に煉獄が、武器を抜いて男の正面から突きを入れた。

相手は刃物でそれを受け止める。金属のぶつかる音が響く。

横から回り込んでいた俺は、男の脇腹を突いた。

男は夏物の薄手の服しか着ていないのに、金属のぶつかる音。

アンドロイドか。

しかも思い切り突きを入れたのにビクともしない。

先に攻撃を仕掛けた煉獄も、振り切られて弾き飛ばされた。

間髪入れない相手の攻撃が、俺の左腕を掠めた。

焼けるような痛みが広がっていく。けれどかまっていられない。

 


弾き飛ばされた煉獄はすぐに起き上がり、体勢を立て直した。

煉獄の、剣を下から振り抜くような攻撃を、男が後ろに飛び退いて躱した。

俺が一歩踏み込んで突きを入れるが、これも刃物で受け流される。

 


俺達の持っている武器は、最近作り替えたばかりのレニウムを使った物だ。

刃物ではないが以前の鉄パイプよりも形状は剣に近く、材質は鉄よりも硬い。

相手が普通の人間なら、間違いなく一撃で骨を砕く。

 


今度は二人で同時に攻撃を仕掛ける。

煉獄の剣を男が受け止めた瞬間、俺が頭部を狙って剣を振り下ろした。

金属のぶつかる音。

こちらの剣が折れることこそ無いが、相手はビクともしない。

煉獄が、押し合っているところから急に力を抜いて相手の体勢を崩し、男の首筋を狙って突きを入れた。

またしても金属のぶつかる音がして、男はすぐに刃物を向けてくる。

俺達も飛び退いて避けた。

 


何度も、何度も、相手の体のあらゆる所を狙って攻撃を繰り返す。

けれどそれも虚しく、金属のぶつかる音しかしない。

俺も煉獄も、ついに息が上がってきた。

俺は左の上腕と右の肘のあたり、煉獄は脇腹を刃物が掠ったようで、白いシャツが血で染まっている。

 


相手は傷を負うこともなく、疲れも知らない機械だ。

このままでは消耗が激しい俺達が負ける。

 


今までのアンドロイドとはまるで違う。

 


「こいつ・・・急所は無いのか」

俺が呟くと、煉獄が俺と目線を合わせた後、線路の方に目線を向けた。

線路に追い落とす。そういう事か。

 


敵の弱点 不死川実弥

 


新しい武器の強度がなければ、こっちの剣が折れていたかもしれない。

二人同時に襲いかかっても、相手の男は倒れなかった。

急所を狙っても全く効果が無い。

痛みも感じなければ、傷を受けることもないアンドロイドだ。

 


相手の振り回す、腰刀ほどの長さのある刃物は、俺達の武器を受け止めても折れることもなかった。

当然の事ながら生身の人間のこっちは、戦い続ければ怪我もするし体力も消耗する。

さっき、相手の刃物を剣で受けた時止めきれずに、利き手の親指の付け根をザックリ切られた。

冨岡も左腕を負傷している。浅い傷ではないらしい。

出血が酷く、顔色を見れば血の気が無い。体力の消耗が気になる。

 


疲れを知らない相手は、戦い続けても全く衰えない力で斬りつけてくる。

俺達は徐々に押されていき、階段の上ギリギリの場所で、二人同時にその攻撃を受け止めた。

冨岡が俺の方に視線を送ってきた。

言わんとする事はわかった。

軽く頷き返す。

「今だ!」

冨岡が声を発したのと同時に俺は、相手の刃物を受け止めて押していた力を抜いた。

冨岡の方も同時に力を抜いたから、全力で押してきていた相手はそのまま真っ逆さまに階段から落ちていった。

頭を強打したようで、普通の人間ならこれで確実に死んでいる。

 


けれど相手はアンドロイドだ。

しかも、今まで相対した他のアンドロイドとは強さが違う。

これで倒せたとは俺も冨岡も思っていない。

落ちていく男の後から、全速力で階段を駆け降りた。

 


さっき落ちた衝撃で、男が持っていた刃物が手から離れていた。

階段の下にあったそれを、俺は線路の方に向かって思い切り蹴った。

相手が武器無しなら、勝てるかもしれない。

けれど、線路に落とす所まで届かなかった。

俺が蹴った相手の武器は、刃先を半分線路の方に突き出しながらギリギリの所で止まっている。

 


落ちた男は起き上がって体勢を立て直し、武器を取りに走った。

今しかない。

冨岡も同じ事を思っているはず。

感覚の無くなってきた右手。左手を添えて渾身の力を込めて剣を握り直す。

二人の剣が同時に、一瞬背を向けて武器を拾おうとした男の体を突いた。

男がバランスを崩して線路に落ちる。

 


男が掴みかけていた刃物も、線路の上に落ちて転がった。

起き上がって武器の所在を確認した男は、数メートル歩いてそれを手に取った。

男の背後から電車が近付いてくる。

 


次の瞬間、重い鉄の車体が男の体に衝突した。

 


「あれでさすがに壊れただろうなァ」

「そうだろうな。電車に轢かれたら危険という事などは、おそらく知識として入れられていないと思う」

「戦うだけの機械だからなァ。人間ほど考えられねぇんだろォ。そうじゃなかったらほんとにヤバかったなァ」

「ああ。今世では初めて、死ぬかもしれないと思った」

 


追跡 栗花落カナヲ

 


「武器はあんのか?」

走りながら錆兎が聞いてきた。

「大丈夫。護身用に持ってる」

炭治郎にははっきり言っていないけど、私には前世の記憶がある。

鬼殺隊士だった頃の記憶が。

 


炭治郎は私に戦ってほしくないらしい。

鬼舞辻無惨の転生の事も、彼らの計画に対抗すべく炭治郎達が今やっている事も、私に対しては一生懸命隠そうとしてた。

その事にはかなり前から気がついていたけれど、それも炭治郎が私の事を思ってくれてのことだって分かってたから・・・

 


「見えた!あいつだ

一番前を走っている時透君が叫んだ。

逃げていく男の後ろ姿が、私の視界にも飛び込んできた。

ホームに居た人達はほとんど逃げて、周りに人の姿は無い。

戦っても人を巻き込む心配はなさそうだ。

全速力で走り、男を追う。

 


時透君が追いついて、男の背中に突きを入れた。

金属同士のぶつかる音が響く。

相手は人間ではない。アンドロイドだ。

錆兎も真菰も、今の音を聞いたはずだ。

手加減は要らない。

 


男は、走っている時に受けたスピードのある突きに一瞬よろめきかけたものの、直ぐに踏みとどまりこっちを振り返った。

顔を見れば何となくアンドロイドと分かる。何の感情も表さない冷たい表情。

 


四人で取り囲み、一斉に攻撃を開始する。

金属のぶつかる音が同時に響いた。

男は体のどこに打撃を受けても、全くこたえない様子で、まともに避けることさえしない。

男が握りこんだ拳から、鋭い刃のような物が突き出している。

蹴りを放ってくる靴の先からも、短い刃物が見える。

 


絶え間なく繰り出される拳を避け、蹴りを避けながら、こっちも攻撃するけれど相手はアンドロイドだ。

傷を負うこともなければ疲れることもない。

相手の蹴りを剣で受け止めても、そのまま体ごと蹴り飛ばされる。

中高生の私達とは、体重も体格も違う。

四人がかりでも、まともに戦って勝てる気がしない。

 


後ろから、誰か走ってくる。

何か叫んでいる。誰?

まさかもっと敵が増えた?

 


「線路側に追い詰めろ!追い落とせ!」

 


炭治郎の声だ。

 


みんなにも聞こえたはず。

 


四方からの攻撃でなく、相手を線路側に追い詰める。

 


時透君が、錆兎が、真菰が、同じ方向から一斉攻撃を始めた。

 


一瞬振り返ると、後ろから走ってくる三人の姿が見えた。

 


二本の剣を振りかざして先頭を走ってくる伊之助、すぐ後に炭治郎、善逸。

一緒に戦ってくれる心強い存在。

 


私も相手の方に剣を向ける。

 


伊之助の攻撃が相手に届いた。

 


金属の激しくぶつかる音。

 


その後に続いて、炭治郎、善逸が、次々と攻撃を仕掛ける。

 


私も後に続いた。

 


相手の男が背にしているのはホームの端。下は線路。

 


相手を破壊できなくてもいい。

一歩でも二歩でも下がらせれば。

 


私達の絶え間ない攻撃に、男は少しずつ後退し始めた。

 

 

 

 


今日で決着をつける 産屋敷耀哉

 


駅の中に居た人達には、避難してもらった。

駅を一旦封鎖して、知らずに入って来た人に危険が及ぶのも避けられたと思う。

その事を、駅長は簡潔に伝えてくれた。

繰り返しアナウンスを流し危険を伝えた事で、人々が駅の外へ避難していった。

 


今日ここで何かが起こると予感した時、すぐに来てみて良かった。

駅長は長年の知り合いなので、私の願いを聞いてくれた。

鉄道会社にも連絡して、電車の遅延に関しても許してもらえそうだ。

 


人が二人も線路に突き落とされ、毒物を入れたスプレーを噴射して回った者が居て、ホームに居た多くの人が被害を受けた。

その事は事実なので、これを解決に持っていくと言えば鉄道会社としても文句はないと思う。

 


「理事長の人脈が広いのは知っていましたけど、本当にどこにでも知り合いがいるのですね」

「こういう時に役立てば、人脈を広げておくのにも意味はあるね。行冥」

 


「間に合って良かったです。本当にありがとうございます」

玄弥が、心からほっとした様子で私と駅長に頭を下げ、泣きそうな顔で礼を言った。

戦いに行った自分の兄が死なずに済んだ事が、本当に嬉しかったらしい。

当然だと思う。

アンドロイドとの戦いで持ち堪えたのは実弥と義勇の力だし、こっちで電車を使って協力してもらった事も、間に合って良かった。

 


社員用の休憩室を急遽医務室として使って、毒物のスプレーで具合が悪くなった人を休ませている。

意識が無くなるなど重症の者は救急車で運ばれていき、ここは軽症者だけだ。

さっき玄弥に連れられてここに来た実弥と義勇も手当てを受けている。

この二人は軽い怪我ではないが「戦いが終わるまではここに居るし、必要なら加勢する」と言っている。

「この傷では無理ですからね。今は休んでいてください」

起きあがろうとする義勇に、しのぶが言った。

出血がかなり酷く、本人が頑なに拒否しなければ救急車で搬送すべきところだ。

「不死川先生も後で病院に行ってくださいね。ちゃんと治療受けないと、後遺症がのこったりすると困りますから」

負傷したのが手の神経の集まっている場所だけに、周りの者は皆んな心配している。

 


ここで今動いてくれているのは、カナエ、しのぶ、炭治郎の妹の禰豆子、うちに滞在していた煉獄家の人達。

床に布を敷いて、数十人の人達がその上に寝かされている。

まるで野戦病院のような様子だ。

 


行冥と玄弥は、倒れている人達を見つけてここへ運ぶ役割をしてくれている。

 


「電車本来の役割とは、かけ離れた事をお願いしてしまって、本当にすまないと思っている」

私は駅長に、心から詫びた。

「人を助けるためですから。電車も納得してくれるでしょう」

「それは本当に。さっきももう少し遅かったら、ここに居る二人は生きていなかったかもしれない。私からも礼を言いたい。ありがとう」

「助けられて良かった。しかしまだ終わってないですよね」

「そうだね。まだ戦っている子達がいる」

「電車の方は、あいつらに任せとけば大丈夫だと思います」

ここに残ってくれた駅員や運転士達も、皆んな一緒に戦ってくれている。

 


「戦闘用アンドロイドが、あと何体いるかですね?もう一度見てきます」

「頼むよ。行冥」

義勇と実弥から、さっき戦った戦闘用アンドロイドは、今までの物と比べ物にならない強さだと聞いている。

この二人でさえここまで苦戦していることを考えれば、相当な強さなのだと思う。

杏寿郎と天元が、もう一人の男を追って行ったらしい。

その男もアンドロイドかもしれない。

 


全員の力 煉獄杏寿郎

 


俺と宇髄は、疲れを見せないアンドロイドと戦いながら、少しずつ線路から遠い方に自分達の位置を変えた。

二人で交互に絶え間なく攻撃を続け、一歩でも二歩でも、相手を線路側に後退させる。

 


この騒ぎで電車は全て止められているはずなのに、さっき向こうの線路を電車が走り抜け、その時に何かと激しくぶつかる音を聞いた。

誰かがこの戦いを知って、加勢してくれているのかもしれない。

理事長も、もうすぐ決着がつくと言っていた。

それはもう、今なのかもしれない。

 


出血が多かったのか頭が朦朧としてきている。

まだ倒れるわけにはいかない。

宇髄も体力の限界なのか苦しそうだ。

あと一歩。もう少し。

気力だけで剣を握り直し、立ち向かう。

 


後ろから誰か走ってくる気配。

新たな敵か!?

宇髄が一瞬そっちを振り返った。

「行くぞ!煉獄」

再び目の前の敵に向かう。

後ろから来ているのは、敵ではなかったのか。

俺と宇髄の攻撃に続けて、後ろから走ってきた人物の放った鉄球が、目の前の男を線路に叩き落とした。

 


ホームに入って来た電車が、起きあがろうとした男の体を跳ね飛ばす。

 


「ありがとうございます。悲鳴嶼先生」

「助かりました。ありがとうございます」

「間に合って良かった。傷は大丈夫か?」

「平気です。相手は二人居て、もう一人を冨岡と不死川が追っていきました。同じようにアンドロイドだとすると・・・」

「彼ら二人はアンドロイドを倒した。けれど二人ともかなり負傷していたので今手当を受けている。命には別状はないから大丈夫だ」

「良かった」

「他にはアンドロイドは・・・」

 


宇髄が言い終わらないうちに、反対側から数人が襲いかかって来た。

鉄パイプや刃物を持っている。

「人間かもしれない!殺すな!」

悲鳴嶼さんが叫ぶ。

それを聞いた俺は催涙スプレーを抜いて、襲ってくる相手に向けて噴射した。

宇髄も同時に同じ攻撃を仕掛けていた。

叫び声が上がり、明らかに相手の動きが止まった。

それでも、めちゃくちゃに武器を振り回しながら走ってくる者も居る。

前は見えていないらしい。

まともな攻撃にはなっていない。

 


俺は剣を手放した素手で、暴れている者の首筋に手刀を入れて昏倒させた。

相手は五人居たが、この戦いはすぐに終わった。

「普通なら催涙スプレーを浴びた瞬間動けなくなる。操られているのだろうな」

「胡蝶達も来ているから大丈夫だ。薬の用意もある」

 


「兄上!」

向こうから、他の人達と一緒に千寿郎が走って来た。

「この傷・・・」

「大事無い。悲鳴嶼先生が加勢してくれたおかげで、宇髄と俺でアンドロイドを倒せた。電車を動かしてくれた人もいるのだろうが。それにも本当に感謝している」

 


「おっ!?お前らも来てたのか?」

三人の女性達が、心配そうな顔で宇髄を囲んでいる。

「俺の怪我は大したことねぇ。アンドロイドも始末できた。大丈夫だ」

宇髄は彼女達の顔を見ると、ホッとしたように笑顔を見せた。

今は職場が同じという知り合いの間柄だが、前世では宇髄の妻だった女性達。

彼女達に前世の記憶は無いらしいが、今世でも何故か意気投合して親しいという。

 


今度は倒れている男達に目を向けて、彼女達が話している。

「この人達はアンドロイドではなかったのですね」

「とりあえず運んどく?」

「他の人達と一緒にして大丈夫なの?」

 


「薬の用意があるってさっき、悲鳴嶼先生言ってましたよね」

「そうだ。だから一緒の場所に運んで問題無い。私も手伝おう」

「助かります。私達もやりますから、宇髄先生と煉獄先生は、後からゆっくり来てください。向こうで手当てしますね」

 


千寿郎も、一緒に来た不死川の弟も、よく手伝ってくれている。

悲鳴嶼さんと女性三人も居るし、皆で手際よく、倒れている人間達を運んで行った。

「煉獄。大丈夫か?顔色悪いぞ」

宇髄が心配して声をかけてくれる。

「何ともない。少し血が減っただけだろう。数日休めば回復する。君こそ大丈夫か?」

「一応自分で止血できたし。あとは向こうへ行ったらやってくれるでしょ」

宇髄は、持っていたハンカチを腕の傷に巻いていた。

 

 

 

総力戦 時透無一郎 

 


全員一丸となった絶え間ない攻撃で、男をホームの端まで追い詰めた。

もう少しだ。

足を狙って、薙ぎ払うように剣を振った。

後退してそれを避けようとした男が、足を踏み外して線路に転落する。

 


入って来た電車が、スピードを上げてその体の上を通過した。

 


やっと倒せた。

振り返ると、数十メートル向こうで、戦っている者がいる。

しまった。こっちの戦いに必死で気がつかなかった。 

走りながら状況を見る。

敵側はおそらくアンドロイド。さっきまで戦っていた相手と、同じような武器を持ち、同じような動きをする。

 


一人の少年が、そのアンドロイドと対峙している。

その少年が着ているのは、俺達と同じ学校の制服。

アンドロイドと戦っている少年は、驚くべき身体能力でスピードのある動きをする。

容赦なく繰り出される敵からの攻撃を、巧みに躱し続けている。

けれどあの少年は、武器を持っていない。

どんなに彼が強かったとしても、怪我もしないし疲れを知らないアンドロイド相手に人間の肉体では、いずれ体力を消耗する。

このままでは危ない。

 


今都合のいいことに敵側の方が、線路に背を向ける位置にいる。

俺は、剣を構えて敵に向けて突進した。

こっちに気がついた炭治郎が加勢してくれる。

敵の注意が、対峙している彼から離れて、攻撃を仕掛ける俺達の方に向いた。敵が完全に顔をこっちに向けた。

 


その瞬間、高く跳躍した少年の蹴りが、敵の側頭部に命中した。

スピードと全体重を乗せた蹴りで、敵の男の体は傾き、線路に転落する。

蹴りを決めた彼の方も、そのまま線路に飛び降りた。

飛び降りた次の瞬間には走り出して、反対側のホームに自力で飛び上がった。

倒れたアンドロイドの方もすぐに体を起こしはしたけれど、立ち上がったところで、向こうから入って来た電車に跳ね飛ばされた。

 


「大丈夫か?!」

炭治郎が、ホームの向かい側に上がった彼に向かって叫んだ。

「加勢してくれて助かった!何ともない!」

軽く手をあげて相手が答えた。

怪我もしていないらしい。良かった。

それにしても凄まじい破壊力の蹴りだった。

人間技とも思えないほどだけど、どう見ても普通の人間らしい。

まして同じ学校の制服だし、キメツ学園の生徒なのだろう。

俺よりはいくつか年上っぽいし高等部だと思う。

 


ほっとしたのも束の間。

向こうから武器を持った数人の敵が襲って来た。

まだ居たのか。

向き直って剣を構える。

「ダメだ!人間かもしれない!」

炭治郎が叫んだ。

なるほど、そうかもしれない。

俺は剣はそのままに、左手で催涙スプレーを抜いた。

 

 

 

戦いの終わりは近い 伊黒小芭内

 


「休んでいなくても傷はもう大丈夫なのかな?」

「戦うわけでもありませんから。大丈夫です。理事長」

甘露寺の家に滞在して、情報発信の方を二人でずっと頑張ってきたが、今日戦っている皆がどうしているか、やはり心配になる。

家でじっとしてもいられなくなり、それを話すと甘露寺も同じ気持ちだったようで、結局ここまで来てみた。

傷も方回復してきたし、車の運転くらいは出来る。

 


情報の拡散は日に日に加速してきている。

怪しい治験をやっている施設の事、あの病院の地下の火事で隠蔽された出来事、謎の自殺や犯罪や事故が人為的な物であるという疑い。

俺達だけでなく、全く知らない他の発信者達が、色々な媒体を使って発信を続け、それが拡散している。

奴らがどんなに頑張って潰そうとしたところで、この流れはもう止められないはずだ。

 


「もうすぐ決着がつきそうだと、理事長はおっしゃってましたよね」

甘露寺が理事長に聞いた。

「その通りだよ。情報発信を頑張って、拡散の具合を見てきた二人なら分かるだろう。今がどういう状況なのか。今この場所で騒ぎを起こしているのも、彼らの最後の足掻きだろうね。今までも彼らが小規模に何度もやってきた事だけれど、自分達で騒ぎを起こしておいて、こんなに大変な事が世の中で起きているという演出をする。その上で、皆の安全を守るためと言って個人情報を管理し、完全監視社会を作る。従わない者を炙り出して始末する。不老不死で防犯上も安全な機械の体を持ちたいと、人々に思わせる」

マッチポンプですね。それが彼らのやり方で、いつも同じパターンなんですね」

「しかも頂点に居る彼らは人数も少ないし、情報を得て彼らに背を向ける人が増えれば、それだけで彼らの企みは終わりという事ですね」

「そうだね。今のこの騒ぎにしても、彼らが起こした事だとバレてきているかもしれないね。最近彼らの側でも、自分達の立場が危うくなってきた事に気がついて、逃げる者が増えてきている。バレた時に責任を問われたく無いからだろうね」

 


中に入っていくと、野戦病院のような状況になっていた。

毒が撒かれたらしいが、軽症で回復した人は、タクシーを呼んだりして帰宅し始めているらしい。

キメツ学園の校医の珠世さんも、倒れた人達の治療のために駆けつけてくれた。保健室の主の愈史郎も来ている。

 


「お前らも怪我か?」

「不甲斐ない」

「やっぱ普段運動不足かも」

煉獄と宇髄が、戦いで傷を負ったようで横になって休んでいる。

意識ははっきりしていて話せる程度なので良かった。

向こうで休んでいるのは不死川と冨岡か。

「あいつらもやられたのか?」

「重傷じゃねぇから心配無い。戦うのはもう無理だけど」

「俺も人の事は言えないが、前世で柱だった者が六人も戦線離脱か」

「そぉみたいね。若手が頑張ってくれてるわ」

 


今は炭治郎達が、破壊されたアンドロイドの体を回収しに行っているらしい。

胡蝶の頼みだそうで、どんな物で作られているのか後で分析するためだと思う。

 


戦いはもうほとんど終わっているのか、緊迫した空気は感じられない。

 


このところ甘露寺と二人で毎日情報の拡散具合を追っていたが、一度加速度が付くとあとは早いらしい。

まるでオセロゲームの石が黒から白に変わるように、あっという間に変わっていく。

奴らのやっている事には魅力を感じない、怪しいと言っている発信元、それを拡散している人達が、今は少なく見積もっても一千万人以上だと思われる。

これが日本国内で過半数になるのはもう時間の問題だと理事長も言っていた。

奴らはもうすでに信頼も人気も失いつつある。

これから何を仕掛けたところで、見向きもされなくなる日は近いだろう。

 


「最後の仕上げだな。今日のこれを写真に撮って投稿しておくか」

「そうね。伊黒さん。これが終わったらほんとに平和になって、これからゆっくり出来るよね」

「傷ももう完治するし、これからは二人で色々な所へ行こう」

そう言ってやると、甘露寺が本当に嬉しそうに笑った。

この笑顔を見ただけで俺は、天にも昇る心地になる。

 

 

 

これからは平和に 悲鳴嶼行冥

 


「理事長。夏休みのうちに何とかなりそうですね」

「そうだね。戦いはおそらくもう無いと思うよ。私にメッセージをくれている存在がさっき教えてくれたけれど、彼らのエネルギーは弱まって遠ざかっているらしい。私自身も何となく今それを感じる」

「人間より上に君臨しているという例の・・・」

「そう。彼らの事だよ。地球で支配の遊びをするのをやめて、去っていこうとしてるんじゃないかな。うまくいかなくなったから、きっと飽きたんだろうね」

「無惨はどうするんでしょうね」

「おそらくもう逃げたんじゃないかな」

「逃しといていいんですか?」

「逃げる者はほっとけばいいよ。もう何かをやらかす力も無いから。多くの人に支持されてこそ保てるのがカリスマ性。皆んなが離れていけば、それも自然に無くなるからね。彼が何を頑張ったところで、もう誰も見てないよ」

 


伊黒と甘露寺が、いい雰囲気で連れ立って写真を撮りに行った。

 


伊之助の所にいるのは、育ての親のヒサさんだな。

差し入れの夕食を持ってきてくれたらしい。

それと他にも、たしか神崎アオイという生徒。

伊之助となかなか似合いだな。

側にいるあの三人は中等部の女子生徒か。

本人達は記憶は無いだろうが、神崎アオイもあの三人も、前世蝶屋敷に居たメンバー達だ。

 


無一郎のところには、双子の兄の有一郎が迎えに来たらしい。

スマホの画面をのぞきながら二人で話している様子も楽しそうだし、もう戦いの時の緊迫感は消えている。

 


善逸も、炭治郎の妹と二人で座って話している。

花火には行けなかったけれどまたどこか行こうとデートの計画らしい。

炭治郎も作業を終えて、座って飲み物を飲みながらカナヲと話している。

 


「いいねぇ。若い奴は。青春だわ」

皆んなの様子を見ていた宇髄が言った。

「そうだな。羨ましいことだ!」

隣に居た煉獄が答える。

 


その近くで、誰かに電話しているらしいのは・・・

うちの学校の素山という生徒だ。

「・・・大丈夫だ。怪我もない・・・花火大会には行けなかった。もう帰るよ」

電話を切った素山が、煉獄の方を向いて言った。

「終わったぞ。杏寿郎。無惨の声はもう聞こえない」

「そうか!良かった」

 


誰の表情にも、もう緊張感は無い。

 


ホームの方を見ると、途中から回収作業を手伝いに来てくれていた村田の姿もある。

 


今改札の方から姿を見せたのは、用務員の鱗滝さんか。

炭治郎達を心配して様子を見に来たのだろう。

 


ここに来ている全員が、自分のアカウントから情報拡散に協力してくれている。

誰が頼んだわけでもないのに、個人個人が自主的に。

それが大きな流れを生んだ。

 


「花火大会の会場でも、トラブルはあったらしいね」

「そうなんですか。理事長」

「戦闘用アンドロイドは出ていないし、ここで起きた事ほど酷くはないけどね。毒物を撒こうとした者が居たらしい」

「どうなったんですか?」

「情報を追うようになって私も知ったけれど、私達のような活動をしている者達は他にも居るようだね。事前に防いだようで怪我人も無く、花火大会も一時中断しただけで再開されたらしいよ」

 


三ヶ月後 竈門炭治郎

 


あの駅での戦いの日。

あの時を境に、怪しい事件が起きることは嘘のように無くなった。

何事もなく平和に夏休みが終わり、九月から二学期が始まった。

戦いで怪我をした先生達の事が心配だったけど、新学期には誰一人欠ける事なく元気な姿を見せてくれてすごく安心した。

 


インターネットでの、奴らの企みについての暴露は、あの後一ヶ月くらい続いていた。

奴らに出来たのは、戦闘用アンドロイドを作る事と、人間の脳に影響を与えて単純な命令に従わせる事。そこ止まりだった。

人間の脳と機械の体を融合させる事は出来ていない。

それによって奴らが作ろうとしていた「人間のままの見た目で人間と同様に思考しつつ命令通りに動く不老不死の新しい生物」なども出来なかった。

奴らの企みは失敗に終わり、完全に諦めたのか飽きたのか、地球の人類に干渉するのをやめて去っていった。

去っていったと言っても元々肉体があるわけでもないから、消えたという方が近いかもしれない。

奴らの血を濃く受け継ぐ者達は、あの事件の前後で次々と姿を消していった。

責任を追求されるのを恐れて、雲行きが怪しくなってきた時にいち早く察して社会的地位を捨て隠居した者もいれば、死んだ事にしてどこかに逃走している者もいるらしい。

 


街の様子も、少しずつ変わってきた。

 


街中の至る所に、年々やたらと増えていっていた監視カメラは、いつの間にか撤去されてあまり見かけなくなった。

政府が頑張って進めていた、一人一人に番号を割り振って個人情報を完全管理しようとする動きも、いつの間にか無くなった。

いくつかの大企業を残して他の会社は全て潰れるのではないかと思われた状況から大きく流れが変わり、中小企業が息を吹き返し、個性的な個人店も次々とオープンして街は賑わっている。

 


今日は日曜だけれど、両親が留守なので俺が店番をしている。

禰豆子と善逸は、二人で朝から出かけて行った。

俺も仕事が終わったら、伊之助とアオイ、カナヲと四人で映画に行く予定だから楽しみにしている。

夜に映画に行くのもそういえば久しぶりだ。

夏休みに花火大会に行けなかったかわりに、今日は思いっきり楽しみたい。

家業のパン屋の売り上げも上々で、貯まったお金で家のリフォームをする計画、冬に一度臨時休業にして旅行に行こうという計画など、家族全員にとっての楽しみもある。

 


さっきは、伊黒先生が甘露寺さんと二人で来て、甘露寺さんが山ようにパンを買うのをすごく優しい表情で見てた。こっちまでなんか幸せな気持ちになる。

素山さん夫婦も、時々二人で来てくれる。

この二人の雰囲気も本当に幸せそう。

 


カナエ先生と、しのぶ先輩が一緒に来た時は店の中が一気に華やいで、店内に居た他の男性客の視線がすごかった。

 


今朝悲鳴嶼先生が来てくれた時は、猫の写真を見せてもらって、なんかすごく癒された。動物いいなあ。

 


もうそろそろ店じまいかなという時、聞き慣れた声がしてキメツ学園の先生達が集団で入ってきた。集団と言っても四人だけど。

宇髄先生、煉獄先生、不死川先生、冨岡先生。

見慣れてるとは言え、皆んなそれなりに大柄だし声大きいし髪色派手だしなんか存在感すごい。

「いらっしゃいませ。残業ですか?お疲れ様です」

「日曜なのに店番か?頑張ってんな」

「もうすぐ閉店のようだな。間に合って良かった。腹が減った」

 


聞けば皆んなでこれから、不死川先生の家で飲むらしい。

コンビニの袋から缶ビールがのぞいている。

少し手を加えればビールのおつまみにも良さそうなバゲットや、サンドイッチの類が少し残っていて良かった。

それぞれに好きな物をトレイのせて、先生達は皆んな現金でお金を払って帰っていった。

 


今日は売れ残りゼロ。

大抵いつも、売れ残っても数個程度なので家族で夕食の時に食べる。

外に出て営業中のフダを裏返し、トレイやトングを片付ける。

今日も忙しくてあっという間だった。楽しかった。

 


片付けと掃除が終わった頃、伊之助が呼びに来た。

 


「紋次郎!早く来い!出かけるぞ!」

「分かった!すぐ行く!」

 


戸締りを確認して外に出る。

 


これから遊びに行く楽しさからなのか、空に浮かんだ月が、いつも以上に明るく美しく見えた。