大人のヲタ活記録日記

年季の入ったオタクのブログ。オタ活を楽しむ日常の事、一次創作、二次創作イラストの保存、漫画の感想など。

16 二次創作小説第16話

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その日の夜の出来事 宇髄天元

煉獄が俺の部屋として貸してくれた部屋。
机の上には仕事の書類や、ノート型パソコンが置いてある。
夜には、縁側に出られる方の入り口は雨戸を閉め、廊下に面した部屋の入り口も襖を閉めて、襖の上の方に小さな紙を挟んでおいた。
「何をやっているんだ?宇髄」
煉獄が不思議そうな顔をして見ている。
「これ?誰かがもしここを開けたとしたら、この紙が落ちる」
「なるほど。夜の間に侵入者が居たらそれで分かるということか」
「そういうこと。こっちは開けとくか」
部屋には、煉獄と俺の分の布団が二組敷いてある。

この部屋の真向かいは両親の寝室で、弟の千寿郎もそこで寝ている。
廊下に面したこの寝室の襖は、半分開けっ放しになっている。
それに倣って、俺も部屋の襖を半分開けておいた。
こうしておけば、もし廊下を通って何者かが侵入した場合、五人の中の誰か一人ぐらい気がつくと思う。
もし向かいの部屋で何かあっても、すぐ助けに行ける。

 

「俺の方が眠り浅いし。誰か通ったらすぐ気がつくからこっちで寝るわ。何かあったら援護して」
「うむ。承知した」
煉獄を部屋の奥の方に行かせて、俺は手前の方の布団に滑り込んだ。
すぐ手が届く場所に、催涙スプレーや武器を置いている。
来るなら来やがれ。
不死川の家に滞在している冨岡が殺されかけたという話を聞いた時は、本当に油断出来ないと思った。
だけどもしここに来てみろ。俺が確実に仕留めてやる。
煉獄も、その家族も、誰も傷つけさせない。

「宇髄。もし何かあっても君の事は必ず守る。もちろん家族も。ここに居る者は誰も傷つけさせない」
俺は思わず軽く笑いをもらした。
「どうした?宇髄。俺は何かおかしい事でも言ったか?」
「そうじゃねぇよ。俺と全く同じ事考えてんなと思って。お互いそれくらいに思ってた方がいいのかもしれねぇけど。何でも一人で全部抱えんのやめてよ」
「君も同じ事を思っていたならお互い様だろう。・・・そうだな。何かあれば共に戦おう」

 

ここ数日の疲れもあったのか、俺は横になってすぐ眠ってしまったらしい。
夜中にふと目が覚めて時計を見ると、深夜3時を回っていた。
めずらしく数時間爆睡していたようだ。
隣を見ると、煉獄はまだよく眠っている。
今までに誰か侵入していれば目が覚めたはずだし、今日は何も無かったか?
一応、侵入者があれば分かるように紙を仕掛けておいた奥の部屋を確認しておこう。
俺は、煉獄を起こさないようにそっと布団から出て、半分開けっ放しにしている部屋の入り口から廊下へ出た。
隣の部屋の襖を確認すると、仕掛けた紙はそのままになっていて、人が侵入した形跡は無かった。
廊下にも人の気配は無い。

 

大丈夫だなと思って部屋に戻ろうとした時、遠くで微かに音が聞こえた。
パチパチと火の爆ぜるような音。
俺は廊下を走り抜けて玄関から外へ出た。
普通の人間より聴覚の鋭い俺だから気がついたのかもしれない。

道場か?ガレージか?離れの方か?
庭を走り、音のする方へ向かう。
火の手が上がっているのは、離れの建物だった。
また放火なのか?
弱い雨が降ってるせいもあってか、火の勢いはまだそれほどでもない。
かといって自力で消すのはもう難しい。
他の建物とは離れいてる、あの場所だけなら・・・
とにかく消防車を呼ばなければ。
俺は、全速力で駆け戻った。

 

玄関近くまで来た時、後ろから呼び止められた。
「宇髄!」
振り返ると、煉獄と、弟の千寿郎が立っていた。
寝巻きの浴衣姿のままなので、急いで起きて出てきたのだと思う。
「煉獄!何でここに?!」
「君が出た後、父上も何となく外が気になったようで、寝室の奥にある扉から外に出て様子を見に行った。俺はその物音で起きたら、君が居なくて・・・父上が、向こうで煙が上がっていると言うから全員で出てきた」
「119番には連絡済みです。すぐ来てくれます」
弟の千寿郎が、火事と分かってすぐに通報したらしい。
なかなかしっかりしている。

両親二人は、自力で消し止められないか、外のホースを引っ張ってきているらしい。
「手伝いに行くか」
「そうだな」

 

俺も煉獄兄弟と一緒に歩き出した時、ドーンという爆発音が背後で響いた。
咄嗟に横にいた煉獄を庇って地面に身を伏せる。
煉獄は、弟を腕の中に抱きこんでいた。
地面を伝わって衝撃がこっちまで来たけれど、物が飛んでくるような事は無かった。

地面に伏せたまま顔だけ上げて、音のした方を見る。
火の手が上がっている離れではない。
爆発音がしたのは、たった今俺達が出てきた家の中からだった。
「宇髄。ありがとう」
煉獄が体を起こしながら礼を言った。
「親父さん達は外へ行ったんだよな?」
「そうです。父上も母上も、寝室から直接外へ出て離れに走って行きましたから。この爆発には巻き込まれていません」
両親が出て行くのを見ていた千寿郎が答えた。
良かった。
誰も犠牲にはなっていない。

 

「宇髄。あれは?」
煉獄が、爆発があった家の方を見て、次の瞬間もう走り出していた。
「千寿郎!離れの方に行っておいてくれ!」
去り際に弟に向かって叫んだ。
俺は煉獄と一緒に走る。
俺の目にも今、逃げていく人影が見えた。
あいつがこれを仕掛けた奴か。必ず捕まえる。

所々置かれている庭の照明と月明かりの下、逃げていく相手の背中が見える。
燃え始めた母屋の建物の横をすり抜け、外へ向かう道を走る。
それほど大柄では無い。おそらく男だろう。人間か?アンドロイドか?
追いつけるかと思った時、建物の角を曲がった相手が何か投げてきた。
真っ白な煙が上がり、前が見えなくなる。
しまった。煙幕・・・

 

こうなると、追うのはもう諦めるしかない。

 

それにしても、この程度走っただけで息が上がるとは。
前世の鬼殺隊の頃と比べたら、普段の鍛え方が違うから仕方ないものの・・・さすがにちょっと情けない気もする。
隣を見ると煉獄も肩で息をしていた。
「この程度で息が上がるとは不甲斐なし」
「俺も思ってた。今一般人なんだし、まあしゃあないか。それよりお前の家、めちゃくちゃ災難だったな」
「たしかに当分はここには住めないな。しかし家だけなら直せば済む事だ。家族が全員無事であればそれでいい」

 


すでに消防車が到着して、消火作業は始まっていた。
離れの方の火事は、大したことなく消えたらしい。
もう煙も見えない。
さっきまで小雨だった天気が激しい雨に変わってきたこともあって、母屋の方も火は広がることなく早く消えるだろうと思う。

 

二人で話している所に、煉獄の両親と弟が来た。
「敵は一人では無かったようですね。離れが燃えたのは、むしろそちらに気を逸らすためだったのかもしれません」
千寿郎が言った。
「寝室から直接外に出られる扉があることを、敵は知らなかったのだろうな。離れの火事に気がついた誰かが、中から開けて出てくるのを待った。そして玄関の扉が開いた瞬間中に入った」
親父さんの言葉で、今さらながら気が付いた。
「俺が玄関から出ちまったから・・・」
「それはいい。この中の誰でも、自分が起きて何か違和感を感じたら外に出るだろう」
「そうですよ。そこは気にしないで下さいね。あのあと槇寿郎さんが起きた時、杏寿郎が気が付いてこっちに来てくれて良かった。全員無事でしたからね。私は、皆で出る前に寝室の廊下側の扉に鍵をかけておきました」
「さすが瑠火さん。玄関から侵入した敵は、鍵がかかっている寝室に全員居るものと思ってこの爆発を起こした」
「それにしてもギリギリでした。下手したら全員死ぬとこでしたから」
千寿郎が言うのはその通りだ。
俺もそれを考えて背筋が寒くなった。

 

この後、家が使えなくなった事で、産屋敷邸に全員でお邪魔することになった。理事長の方からそう言ってくれたので、ここは遠慮なく行くことにした。
命を狙ってくる者が居ることを考えると、ホテルや旅館を使えば関係ない周りの人達に迷惑がかかるかもしれないから。
元々悲鳴嶼さんが護衛で滞在していたところに、煉獄家の全員と俺が加わった。

 

火災と爆発があった煉獄家の敷地内は立ち入り禁止になっていたけれど、俺は夜の間にちよっと忍びこんで見てきた。
母屋の方では、バラバラになったアンドロイドの体の一部を見つけた。
あの時、煉獄と二人で追いかけて取り逃したのは人間かもしれないけど、おそらく爆薬を体に巻いて侵入し、寝室の前で自爆したのは戦闘用アンドロイド。
以前、山道での攻防で煉獄の車が爆破された時と同じやり方だと思う。

俺達を狙ってくるところを見ると、敵はまだ諦めたわけではないらしい。

 


奴らの意向としては、人間が機械化された体を手に入れたり全ての個人情報が一括管理される世界を、素晴らしいものとして皆が受け入れるように持っていきたいらしい。
誰も疑問を持たないうちに完全支配の構図を完成させたいから、それに対して邪魔するやつは早急に始末したいと焦っている。

 

これが本当にもうすぐ何とかなるのか?と話していた俺と煉獄に、理事長が言った。

 

天元も杏寿郎も、世の中全体を見てごらん。目立ってきた情報発信者の誰かが不審な死を遂げても、また次の誰かが出てきている。亡くなった子が命を賭して伝えようとした事は、決して無駄にはなっていない」 
「それは本当にそうですね」
「鬼殺隊の時も今も同じってことか・・・」
「あの時も、俺の思いは後輩達が繋いでくれた。亡くなった他の柱や隊士達も皆同じだな。肉体としての人間の命は有限でも、思いは消えない」
「そうだね。杏寿郎。無惨はそこのところを全く理解していない。どこまでいっても彼とは物事の価値基準が違うらしい。無惨より上の存在も居るけれど、考え方は同じようなものだね。彼らは、自分達こそ正しいとしてそれを庶民全員に信じさせようと必死だけれど、彼らの思い通りにはいかないよ」
「今世でも俺は、この命に代えても彼らの計画を阻止していきます。俺が死んでも誰かが・・・」
「煉獄。またそれかよ」
「亡くなった子が居たのも、結果そうなってしまっただけで、誰も死ななくていいならそれに越した事はないからね。杏寿郎。無理はしないように」
「わかりました」
「一人で抱えなくていいからね。むしろ今は、私達の知らないところでの情報の拡散が大きい。支配を進めようとする彼らのやり方に疑問を呈し、待ったをかける発信が、彼らがどんなに頑張って消そうとしても不可能なほどに広がっている。支配体制を完成させるためにインターネットを普及させたのも彼らの側だけれど、庶民の側がそれを利用している」
「一人一人の力は小さくても集の力は大きいということですね」
「そうだね。それも、組織ではなくて個人の動きだから、彼らのやり方では潰すことも出来ない。もう少しだよ」

 

ここに拠点を移して日々生活し、それぞれ好きに情報を発信して、情報拡散の進み具合を確認しながら過ごす。
8月に入ってそんな生活が半月ほど続いた。
この間は特に変わった事はなく、穏やかに日が過ぎていった。

明日は夏休みに入って初めての登校日で、俺も煉獄も職場に行く事になっている。他にも何人か来るはずだ。

ベストなのはこのまま、情報発信だけやっていれば奴らが諦めてくれて戦わずに勝てる流れ。
そうなれば一番だし、そうならなくても、その時はその時だ。

 

 

 

敵の正体 竈門炭治郎

「これが彼らの正体?!」
その写真を見ながら、善逸が驚いたように目を見開いた。
「なんかトカゲみてぇだなあ。あんまり怖くねぇぞ」
伊之助もそう言ったけど、俺もそれに近い事を思った。
前世、恐ろしい鬼を沢山見てきたからか、それと比べるとこれは・・・。
けれど彼らは、ずっと昔から人類の上に居て、今は姿こそ見せないけれど支配を続けてきているらしい。
彼らの下には、彼らの血を濃く受け継ぐ人間達がいて、特権階級として一般庶民の上に君臨している。

そういう人間達の映像で、スローモーションで観るとかなり不気味なものが見られる事がある。
「シェイプシフトというのは聞いた事があるか?」
煉獄先生が、パソコンで違う画面を見せてくれた。
「何ですかそれ?」
「鬼の目がどういう物か、君達なら知っているからわかりやすいかもしれないな。彼らは瞳孔が縦長になっていて、爬虫類の目のような形だ。普段は人間の目のように擬態していても、時々これが剥がれる事がある」

テレビ画面。普通に話している人物の画像。
スローモーションで見ると、目の中が・・・瞳孔の形が、スッと縦長に変わる。舌が突然異様に長く伸びる。鱗のような皮膚が現れる。手の指が突然長く伸びる。
かなりグロテスクな映像だ。
鬼に変わった人間は、牙が生えたり、目が人間のものではなかった。
それと同じようなものなのだろうか。

「けれど彼らは、鬼のように直接人間を食ったり、特別力が強いわけではないですよね」
「そういう意味では、普通の人間と大して違わないのではないかと思う」
「けどこういう奴ら、アドレノクロムとかで若さを保ってんだろ?」
今度は伊之助が聞いた。
「そうだな。間接的には他の人間の命を食い物にしていると言える。アドレノクロムが切れた時の特徴的な症状として、片方の目の周りに黒い痣が出来る」
煉獄先生は、その映像も見せてくれた。
俺も知っている有名人の写真もあって、あの人もこの人もそうなのかとちょっとショックだった。
「作り物の写真もあるから全てがそうかどうかは分からないがな!けれどこういう種族が存在していることと、人類の上に君臨していることはほぼ間違いない」

俺も、理事長を通してそれを聞いてから自分でも調べるようになった。
レプティリアン。たしかそういう名前でしたよね。宇宙種族ですか?」
「宇宙種族と言えば人間も宇宙種族だからな!ヒューマノイド型宇宙人。彼らは人間とは形が違うというだけだ。人間と同じように、彼らの中にも色々な個性の存在が居ると思う」
「鬼にも色々な個性がありましたよね。それと同じなんですね」
「そうだな。前世の君の妹のように、人間と共に戦ってくれる鬼も居たのだから」

煉獄先生の言い方は、すごく優しかった。
前世「鬼は全部悪い」と決めつけられた時、俺は「違う」と言って貫き通した。
今も、人間とは異なる種族であっても、彼らが全部悪いというのはやはり違うと思う。

「人間を支配して好きなように操ろうとしているのは、彼らの中のごく一部という事でしょうか?」
「俺も理事長から聞いたが、そういうことらしい。それもかなり少ない人数ということだ。その下に彼らの血を濃く受け継いだ人間達がいて、それも、トップに近い位置にいるのはせいぜい数百人」
「大した事ねぇな。そんなもんすぐやっつけられるんじゃねぇか?」
伊之助が言った。
人数の事だけ聞くと、たしかに恐るようなものでもない気がする。
彼らは恐れさせようとして色々仕掛けてくるけれど、実際は人数も少ないし、庶民がそれに気がつく事を恐れているのかもしれない。

「お兄ちゃん。皆んな待ってるよ」
「ごめんごめん。すぐ行く」
パソコンの画面にかじりついて皆んなで見ているうちに、気がついたらけっこう時間が経っていた。
今日は夏休みに入って初めてのの登校日で、帰りにみんなで夏祭りに行く約束をしていた。
最後まで画面を覗き込んでいた伊之助も、祭りには行きたいようで離れた。
「また見せてくれよな」
「いつでも見に来るといい」
「煉獄先生。ありがとうございました。失礼します」

俺達三人の他には、禰豆子、カナヲ、錆兎、真菰、時透くん、千寿郎くん、玄弥さん。
これから皆んなで電車に乗って、祭りの開催地まで出かける。
到着する頃にはちょうど夕方で夜店も出始めるし、夜には花火大会がある。
今の状況でも、楽しい事は諦めたくないし、先生達も皆んなそれでいいと言っている。
一人にならない方がいいのは分かっているし、これだけの人数なら大丈夫だと思う。
前世柱だった時透くんや、鬼殺隊士だったメンバーも多いから皆んな頼りになる。もちろん警戒は怠らないけれど。

 

意外な情報 煉獄杏寿郎

竈門少年達が帰って行き、少しだけ自分の用事を済ませてからノートパソコンを閉じた。
今日は俺以外の職員も数人来ている。
宇髄ももう終わった頃だろうか。

帰ろうとして立ち上がった時、教室の扉が開いた。
「素山。まだ残っていたのか。今日は祭りがあるらしいぞ。君は行かないのか?」
俺の質問は無視して、素山は空いている椅子に座った。
「話があって来た」
「俺にか?」
「他に誰がいる」
つっけんどんな言い方のようだが、不機嫌な様子も無いし喧嘩を売りに来たわけでもなさそうだ。
「分かった。聞こう」
俺も空いている椅子を引っ張って来て、素山と向かい合って座った。

 

素山の前世が何だったか、俺は知っている。

もちろん本人に知らないだろうし、知らない方がいい。

 

「俺は、前世の人間の時の記憶と、鬼の時の記憶の両方を持っている」
いきなりの爆弾発言だ。
「何を驚いている」
「君は・・・いや、君だけでなくほとんどの者が、前世の記憶は無いものと思っていた。その方が多いから」
「それか、思い出したくない記憶なら、覚えていても言わない奴もいるだろうな」
「たしかにそういう場合もあるかもしれんな。君はなぜ、俺に話してくれるのだろうか?」

「お前らが頑張ってる事があるだろう。俺の記憶が何かの役に立てばいいと思った。鬼になった時は、人間の時の記憶は完全に無くなっていた。けれど後から思い出してみると、それでもどこかに残っている記憶の断片はあった。最後には、その全てを思い出した。だから俺は再生を拒んで、自分の命を終わらせた」
「そのようだな。俺はその時はもうこの世に居なかったが。今の人生を生きるようになって以降に、竈門少年達から聞いている」

 

「今どういう形で人間が操られているのか分からないが、記憶の全てを消し去って完璧に支配する事は不可能だと思う。俺がそうだったように。人間はそれほど弱くない」
「そうだな。それは俺も分かる気がする。それに理事長が言っていたが、人間は脳だけで生きているわけではないらしい。それも感覚的に何となく分かる。人間の心情や感覚というものは、脳とは別のところから来ていると思う」

「杏寿郎。お前や他の奴が発信している内容は見た。敵側がやろうとしていることは、どうせ実現するはずがない。分かっていて無視すれば終わりなんじゃないのか?」
「そこを知らない人がまだ多いように思う。アンドロイドが人間に近い感情を持ち、不老不死で優秀な頭脳や身体能力を持つ。そういったドラマや映画も、それに憧れる人を増やすためではないかと感じる。今持っている肉体を捨てて、脳だけで機械の体に乗り換えれば、素晴らしい世界を生きられると・・・そういった発信も実際増えて来ている」
「馬鹿な。最初から機械の体を作ってAIを搭載すれば、見た目も動作も人間に近い物が出来るし、話したり働いたりするアンドロイドは出来るだろう。けれどそれと人間の脳を組み合わせたところで・・・」
「所詮最初から別物だな。俺も、それは不可能だと思う」

「それをさも出来そうな言い方をして煽るから、憧れるやつが増えてるって事か?」
「その通りだ。だからそれは違うという発信を、俺達は続けている」


「分からない奴はほっとけばいいものを」
「そうかもしれないな。自己満足かもしれない。けれど・・・発信したものを受け取ってくれた人がどちらを選ぶかは自由だとして、まだこの事を知らない人に向けてある程度、発信してみたいと思う」
「あの頃から何も変わっていないな。杏寿郎。お前のそういう所は嫌いではないぞ」

「君から貴重な情報が聞けた。感謝している」


「俺も手伝ってやらない事もないぞ。戦いになれば力にはなれる」
「今も格闘家だったな。居てくれれば心強いが、君には今大切な人が居るのではないのか。今世せっかく幸せに生きている君が、戦いに身を投じる事は無いと思う」
素山は学生だけれど結婚していて、愛する妻が居るはずだ。

「それを言い出したら全員そうだろう。結婚している以外でも、親がいたり兄弟がいたり、皆んな誰かしら近くに大切な者はいるはずだ。お前もそうだろう。一人で背負うな。杏寿郎。また早死にするぞ」
「君に言われたくないな」

 

「もうすぐ決着がつきそうなら・・・それだけに今大事な時ではないのか?」
「それはその通りなのだが」
「どうしても戦う気なら、敵は最後の足掻きで全力で攻めてくるぞ。俺は、鬼の記憶もあるからそのあたりの事も分かる」
「鬼舞辻無惨のような人物が、次に何を考えるかというところか」
「そうだ。今度は俺を頼れ。杏寿郎」

 

「俺達の情報発信を知って、君がすでに拡散に協力してくれているのは見当がついている。おそらく君のアカウントだと思えるものをよく見かけるからな。感謝している」
「それくらいは大した手間でもないし、やっているのは俺だけではないだろう。この学校の生徒のほとんどが知っていて協力している」
「よもや!拡散が加速しているとは思っていたが!そうだったのか!ありがたい!」

「お前の家で火事があったと聞いて心配になった。どうせ放火だろう」
「その事は生徒達には伏せていたのによく分かったな」


俺のその言葉は聞き流して、素山は話題を変えた。
「さっきあいつらが集団で出て行ったのは、何かの作戦なのか?あいつらが皆んな、この事に関わっているのは知っているぞ」
竈門少年達の事を言っているのだろう。
「戦いとは関係ない。君は色々知っているようだが、この事に関わっているのはさっき帰っていった全員ではないぞ。今日は皆んなで祭りに行くらしい。さっきも聞いたが、君は祭りには行かないのか?」

「祭りか・・・悪くないな。お前こそ行かないのか?行った方がいいと思うぞ」
「どういう意味だ?」
「鬼舞辻無惨が、あの近くに居る」
「何故そんな事を知っている?繋がりがあるのか?!」
「あったらここで言うわけがないだろう」
「すまない。愚問だった」
「あちらさんは俺に対してメッセージを送ろうとしている。俺の記憶があるか無いかは知らないと思うが。俺だけではなく、前世鬼だった強い奴には皆んな送っているのかもしれない。黒死牟はそれに従ってまた配下になったようだな。俺は無視しているし、前世と違って無惨がこっちの思考を読んだり影響を与える事は出来ないらしい。こっちは受け取る事はできるからその内容は分かるし、位置も分かる」

「今日祭りが行われる場所が危ないということか?!」

「その途中の移動に使われる電車もな」
「分かった。君が教えてくれた事に感謝する」
こうしてはいられない。急がなければ。

 

「待て!俺も行く。連絡だけしておくからちょっと待て」
素山がスマホを出したところでちょうど、教室のドアが開いて女子生徒が入ってきた。
たしか素山の妻のいうのはこの生徒ではなかったか。
「煉獄先生。お話し中すみません。声がしていたのでここかなと思って。狛治さん。今日はまだかかりそうなら私は友達と一緒に先に帰るね」
「悪い。他の奴らも皆んな祭りに行ったみたいで俺も行ってくるから。先に帰って待っていてくれ。屋台で何か土産でも買ってくる。夕食は楽しみにしている」
「気をつけてね」
「分かっている」


素山の妻は、俺にも一礼して出て行った。

「君がどういう目的で祭りに行くか、分かっている様子だったな」
「そうだと思う」
それでもあえて聞かないし、止めはしないのか。止めても無駄と知っているのかもしれない。
二人の短い言葉のやり取りの中にも、互いを思いやる気持ちが溢れていた。

「前世を覚えている事には驚いたが、君が今、大切な人と共に幸せに生きている事はよく分かった。手伝ってくれるのはいいが無茶はしないでくれ。せっかく幸せに生きている君を死なせたくないからな」
「ナメるな。杏寿郎。俺は前世はお前より強かったぞ」
「鬼だった時の話だろう。今は普通の人間だぞ」
「そうだったな。冗談だ。お前の強さは知っている。精神的な意味でもな」